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仲裁法改正の概要

弁護士里見 剛

現行の仲裁法(以下「現行法」という)は、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が策定した国際商事仲裁モデル法(以下「モデル法」という)に準拠して2003年に整備されたものであるが、モデル法の2006年改正(以下「改正モデル法」という)には一部未対応であった。また、現行法には、仲裁廷が仲裁判断までの間に必要な措置を命じても強制する手段がないとの問題点もあった。
 そこで、改正モデル法に対応し、最新の国際水準に見合った法制度を整備し、上記のような問題点にも対応するため、令和5年4月21日に「仲裁法の一部を改正する法律」(令和5年法律第15号。以下「改正法」という。)が成立し、同月28日に公布された。
 改正法の施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており(改正法附則1条)、間もなく施行されることになるが、仲裁廷が出す暫定保全措置命令に基づいた強制執行が可能となるなど重要な改正内容を含むため、ここでその概要を紹介する。なお、以下の仲裁法の条文は、いずれも改正後のものである。

1 暫定保全措置関連(発令要件等の整備及び強制執行を可能とする制度の創設等)

① 総論
 暫定保全措置命令とは、仲裁判断があるまでの間、仲裁廷が当事者に対して一時的に一定の措置を講ずることを命ずるものである(改正法24条1項)。
現行法にも「暫定措置又は保全措置」の規定はあるが(現行法24条1項)、内容が抽象的であり、同措置命令に基づく民事執行を可能とする規定がないため実効性が弱かった。
そこで、改正法では、改正モデル法の規律を踏まえ、暫定保全措置の類型、発令要件を明確化し、暫定保全措置命令に基づく民事執行を可能とするための仕組みが新設されるなどの改正が行われた。

② 暫定保全措置命令の類型・発令要件
 暫定保全措置の類型・発令要件は、改正法24条1項1号~5号に規定されているが、各規定は、「禁止型」の類型である、財産の処分等の禁止(1号、2号)、審理妨害行為の禁止(4号)、証拠の廃棄行為等の禁止(5号)の各措置と、「予防・回復型」の類型である、紛争対象の物・権利について、著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要な措置・原状回復措置(3号)とに分類することができる。

③ 民事執行を可能とする制度の創設
 改正法における民事執行を可能とするための仕組み及び執行等認可決定の内容は、暫定保全措置命令の類型(上記②参照)に応じ、以下のとおり2つに分けて規定されている。
【予防・回復型】
仲裁廷による暫定保全措置命令

裁判所による執行等認可決定(改正法47条)※1

裁判所による強制執行(民事執行法)
【禁止型】
仲裁廷による暫定保全措置命令

裁判所による執行等認可決定(改正法47条)※2

裁判所による違反金支払命令(改正法49条)※3

裁判所による強制執行(民事執行法)

※1 当該暫定保全措置命令に基づく民事執行を許す旨の決定。裁判所は、執行拒否事由(改正法47条7項各号)があると認めるとき以外は、執行等認可決定をしなければならない(同条6項~8項)。
 ※2 改正法49条1項の規定による金銭の支払命令(違反金支払命令。※3参照)を発することを許す旨の決定。執行拒否事由に関する規定は※1と同様。
 ※3 禁止型の暫定保全措置命令について確定した執行等認可決定がある場合において、当該暫定保全措置命令の違反又はそのおそれがあると認めるときに発令することができる。違反金の額は、当該暫定保全措置命令の違反によって害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案して、裁判所が相当と認める額を定める(改正法49条1項)。我が国の法制上、禁止型の暫定保全措置命令に基づいて一律に民事執行を認めることにはなじまないと考えられること等の理由により、禁止型の暫定保全措置命令については、執行等認可決定とは別に違反金支払命令を発令することとされ、当該違反金支払命令に基づいて民事執行をすることができることとされた。

2 その他

改正法では、上記1以外にも、例えば以下のような改正がなされている。

① 東京地裁・大阪地裁への管轄拡大(改正法5条2項等)
 国際仲裁・国際調停といった専門性の高い事件を念頭に、裁判所における専門的な事件処理態勢を構築し、手続の一層の適正化及び迅速化を図るため、仲裁関係事件手続について、東京地裁・大阪地裁にも競合管轄を認めることとされた。

② 翻訳文添付の省略(改正法46条2項但書等)
 現行法では、裁判所に仲裁判断の執行決定を求める申立てをする場合、仲裁判断書が外国語で作成されているときには、日本語による翻訳文を提出する必要があった(現行法46条2項等)。もっとも、仲裁判断書は仲裁手続の経緯等が詳細に記載され大部となることが多く翻訳文作成の負担が重い一方で、裁判所における審理のための必要性が乏しい部分もあるとの指摘があった。そこで、当事者の負担軽減を図る観点から、裁判所が相当と認めるときは、被申立人の意見を聴いて、仲裁判断書の命令書の全部又は一部について、翻訳文の提出を省略することができることとされた。

3 参考URL(法務省)

① 「仲裁法の一部を改正する法律、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律について」
法務省:仲裁法の一部を改正する法律、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律について (moj.go.jp)

② 「法律の概要」
001395219.pdf (moj.go.jp)

③ 「暫定保全措置命令に基づく強制執行を可能とする制度の創設等」
001395270.pdf (moj.go.jp)

【弁護士 里見 剛】