コラム

土地の境界上の構造物は誰のものか

弁護士藤原 孝仁

街を歩いていると土地の境界に境界塀や擁壁などが建てられているのをよく見かけます。この境界塀等の構造物がそれぞれの敷地内(境界の内側)に建てられていればその敷地の所有者の所有物であろうということに特に疑義もないところであり、土地売買などの不動産取引の際に特に争いになることもないのでしょうが、時折、境界線上にこれら構造物が一部乃至全部存在し、それが誰の所有物か(管理は誰が行うべきか等)が争いになる例があります。

このような境界線上の構造物の所有関係について、法律がどのように定めているかというと、

民法第239条
境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

と民法上定められており、原則として境界の相隣者の「共有」と「推定」されるものとされています。
 民法上の定めはあくまでも「共有に属するものと推定する」ですので、共有ではなく特定の敷地の所有者の所有物である等といった推定を覆す立証がなされれば、それに従うということになります。

この種の土地の境界線上の構造物について、近隣紛争となる例としては、土地を購入したところ、一部境界部分をまたいで構造物が存在しており、一方当事者は越境物(隣地所有者の所有する構造物が境界を越えて設定されている状態)と認識していたところ、他方当事者は越境ではなくもともと境界線上に設置された共有物であると認識していたような場合があります。
 このような争いが具体的に裁判で争われる場合には、例えば、越境物と認識している当事者から越境物の撤去を求める訴訟(収去土地明渡請求)が起こされ、それに対して撤去を求められている他方当事者から越境物ではなく境界線上に設置された共有物であるという反論がなされるといった訴訟手続・進行が想定されます。

関係者の認識状況、構造物の設置状況(境界線上に構造物がすべて存在するのか、あるいは、一部境界線上に存在するものの基本的にはどちらかの敷地内に構造物が存在するものか等)、構造物の種類及び機能(境界の存在を明示するための構造物であるのか、あるいはどちらかの土地のための構造物(例えば一方の土地の土砂流出を防ぐための擁壁等)であるか等、諸般の事情から民法の定める「推定」の通りか、あるいは「推定」が覆されるものかを判断し、必要であれば上記のような裁判等で主張立証を行っていくということになりますが、紛争になっている例をみますと、土地売買等不動産取引の際の確認が不十分あるいは不正確であった例なども散見されるところです。

土地売買契約等不動産取引の際には仲介業者なども間に入って確認がなされるのが通常かと思われますが、紛争になるような事案では、土地の所有者が相続等で代替わりしており、構造物設置当時の状況を知る者がそもそもいないといった例も多く、外観の状況などから安易に判断すると過去の経緯と異なっており、所有関係を誤って認識してしまうといったこともないわけではないようです。
 後日紛争となりますと、裁判等で時間と費用を費やして権利関係を整理していくことになりますので、土地売買等不動産取引を行うに際しては境界部分に構造物が存在する場合、その権利関係については特に注意し、仲介業者などを通して十分な調査確認、あるいは必要に応じて隣地と現状に関する新たな合意を行った上で取引を行うことが望ましいところです。

以上