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労働者のメンタルヘルスに関する近時の動向

弁護士中野 丈

(1)労働安全衛生法の一部を改正する法律案

厚生労働省より、労働者のメンタルヘルス対策としての下記事項を含む、労働安全衛生法の一部を改正する法律案が、平成26年3月13日に、今期の国会に提出されております。

① 労働者の心理的な負担の程度を把握するためのストレスチェック実施の事業者への義務付け

② 必要に応じた、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じることの事業者への要請

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/186.html

(2)労働者からの申告がなくてもその健康に関わる労働環境等に十分な注意を使用者が払うべきとする最高裁判例

最高裁より、過重な業務によって労働者が鬱病を発症し増悪させた事例について、使用者の安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償の額を定めるにあたり、当該労働者が自らの精神的健康に関する情報を申告しなかったことをもって過失相殺をすることができないとする判決が、平成26年3月24日に出されています。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=84051&hanreiKbn=02

上記(2)の最高裁判決が、労働者が鬱病の発症を使用者に申告しなかったことを理由として過失相殺をすべきでないと判断したのは、問題となった当該事例の事情を踏まえてのことですが、同判決は、労働者からの申告がなくてもその健康に関わる労働環境等に十分な注意を使用者が払うべきことを一般論として述べるほか、メンタルヘルスに関する情報が、労働者にとってプライバシーに関する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定されることに着目しています。

上記(1)の法律案においては、ストレスチェックを行った医師が労働者の同意を得ないで検査結果を事業者に提供してはならないとされていますが(第66条の10第2項)、上記(2)の判例からは、労働者の当該同意がなかったとしても、必ずしもそれが使用者側に有利な事情として斟酌されるものではないとも考えられます。

以上