トピックス

改正特定商取引法の施行

弁護士石井 林太郎

「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(令和3年法律第72号。以下「改正特商法」といいます。)が2022年6月1日から施行されます。なお、改正特商法のうち、送り付け商法対策に係る改正部分は2021年7月6日に施行済みであり、また、特商法に基づき事業者が交付すべきとされている書面の電子化(後述)については、2023年6月15日までに施行される予定となっています。

主要な改正点の概要は以下のとおりです。なお、2021年7月7日付の当事務所のトピックスもご参照下さい(※1)。

1.通信販売における規制強化(通信販売における詐欺的商法対策)(※2)

(1)広告表示が義務付けられる事項の追加

① 契約の申込み期間(改正特商法11条4号)

事業者が商品・役務等(以下「商品等」といいます。)の販売・提供を行うに当たり、申込み期間に関する定め(※期間限定販売やタイムセールなど、一定期間を経過すると(広告で表示した条件では)商品等の購入ができなくなるもの)があるときにはその内容を表示することが義務付けられることになりました。

② 役務提供契約に関する申込みの撤回・解除に関する事項(改正前特商法11条5号)

改正前特商法では、通信販売として「売買契約」に関する広告表示を行う場合には、売買契約の申込の撤回・解除に関する事項の表示が義務付けられていましたが(改正前特商法11条4号)、改正特商法では、「売買契約」のみならず、「役務提供契約」に関する広告表示を行う場合にも、役務提供契約の申込の撤回・解除に関する事項の表示が義務付けられることになりました。

③ 定期役務提供契約における具体的取引条件(改正特商法11条6号、改正特商法規則8条7号)

改正前特商法では、2回以上継続して「商品の売買契約」を締結する必要がある取引について広告を行う場合に、継続的に契約を締結する必要がある旨、金額、契約期間及びその他の販売条件を表示することが義務付けられていましたが(改正前特商法11条5号、改正前特商法規則8条7号)、改正特商法では、2回以上継続して契約締結をする必要がある特定権利の売買契約及び役務提供契約についても同様の表示が義務付けられることになりました。

(2)特定申込みに関する規制の創設(改正特商法12条の6)

改正特商法は、事業者が、事業者所定の書面又はインターネット等を利用する方法により消費者から申込を受ける方法を「特定申込み」と定義し、①事業者に対して、特定申込みに係る申込み書面又はインターネット等の申込画面に、商品等の分量及び広告表示義務の対象となっている事項を表示することを義務付けるとともに(同義務に違反した場合は行政処分・罰則の対象となります)、②不実表示や表示すべき事項の表示等がなかったことにより消費者が誤認して特定申込みを行った場合、申込みの意思表示を取り消すことができることになりました。

(3)不実告知の禁止(改正特商法13条の2)

通信販売は、クーリング・オフ制度の対象ではありませんが、類似制度である法定返品制度(特商法15条の3)の対象となることはあるため、クーリング・オフ制度の対象となる取引と同様、通信販売に係る商品等の売買・役務提供契約に係る消費者の申込みの撤回・解除が不当に制限されることのないように、通信販売の対象となる契約に係る申込みの撤回や解除に関する事項その他当該契約の締結を必要とする事情に関する事項について、不実告知を行うことが明文をもって禁止されることになりました(違反した場合は行政処分及び罰則の対象となります)。

(4)通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン

上記のとおり、改正特商法では、通信販売における詐欺的商法対策を大きな目的の一つとして、通信販売に関する事業者への規制を強化しましたが、2022年2月9日付で、通信販売の申込み段階における表示についての解釈及び具体例を整理して示すことを目的としたガイドラインが公表されています(※3)。

2.クーリング・オフの通知の電子化(改正特商法9条1項等)

クーリング・オフの対象となる契約・取引について、改正前特商法では、クーリング・オフは「書面」により行うこととされていましたが、改正特商法により、「書面」のみならず「電磁的記録」(電子メール、FAX等)によってもクーリング・オフを行うことができるようになりました。

事業者としては、クーリング・オフのバリエーションが増えたことに伴い、クーリング・オフ通知があった事実を的確に把握するための体制整備が従前以上に強く求められることになります。なお、事業者側で、電磁的記録によるクーリング・オフの方法をあらかじめ一定の方法に限定することも許容されると考えられていますが、例えば、契約締結の際の連絡手段としてSNSを活用することを認めていながら、クーリング・オフの手段としては当該SNSによる通知を認めないなど、事業者側が一方的に通知の方法を不合理なものに限定した場合は、消費者契約法9条8項等に違反する消費者に不利な特約として無効になると考えられています(※4のQA2参照)。

3.事業者が交付すべき書面の電子化(改正特商法4条2項等)

特商法は、通信販売を除く取引形態(訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖販売契約、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引、訪問購入)について、契約内容・取引条件の明確化等の観点から、事業者に書面の交付を義務付けています。しかしながら、デジタル化・ペーパーレス化という近時の潮流を踏まえ、特商法により事業者に交付が義務付けられている書面についても、消費者の事前の承諾を条件に電子化を認めることになりました。なお、事業者が交付すべき書面の電子化については、上記1・2の改正と同時期(改正特商法交付の日から起算して1年を超えない日)の施行が予定されていましたが、悪徳事業者による制度の悪用回避や電磁的方法に不慣れであることが想定される一定の高齢者層への配慮、交付書面の電子化及びこれに対する消費者の承諾を条件にすることに伴いクーリング・オフの起算日の捉え方等について十分に検討を重ねる必要があることを踏まえ、施行までの日が延長されることになりました。現時点では、2023年6月15日までには施行される予定となっており、現在に至るまで、有識者・消費者団体代表者により構成される検討会を通じて検討が重ねられています(※5)。

以上

※1 https://spring-partners.com/topics/news/2356/

※2 令和3年特定商取引法・預託法の改正について | 消費者庁 (caa.go.jp)

※3 (別添7)通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン【令和4年2月9日付通達別添】 (caa.go.jp)

※4 特定商取引法における電磁的記録によるクーリング・オフに関するQ&A (caa.go.jp)

※5 特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会 | 消費者庁 (caa.go.jp)