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ネット通販に対する令和3年改正特定商取引法の影響について

弁護士出縄 正人

「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が、令和3年6月16日に公布されました(令和3年法律第72号)、この結果、特定商取引に関する法律(特商法)が改正され、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において、改正された特商法が別途政令で定める日から施行されます(「改正特商法」)[1]。通信販売は現行特商法においてもすでに規律がなされているところですが、昨今、インターネット経由の商品等(商品及び役務並びに特定の権利)の通信販売(ネット通販)のうち、特に欺罔的な「定期購入」商法のネット通販サイトが一定数存在し、これに対しての消費者クレーム(例えば、1個だけ購入するつもりだったのに、実際には一定期間(最低6か月間など)の購入条件が特約条項中において義務づけされかつ解約も制限されていたためその数倍量を購入する結果となった等。)が急増の傾向にあり[2]、かかる増加傾向をも踏まえて、以下のとおりの重要な改正がなされました[3]

改正特商法においては、ネット通販における詐欺的な定期購入商法への対応として、これまでガイドラインと行政的対応(業務停止命令・禁止命令・指示処分)のみで直接的な罰則規定が規定されていなかったところを改め、通信販売における広告表示の義務規定及び誇大広告の禁止規定を強化し、最終確認画面(購入申込画面)上における表示義務を新たに課すとともに(改正法12条の6第1項)、同条2項で最終確認画面上の記載で人を誤認させるような表示を禁止し、これに違反して誤認させるような表示をした場合には、100万円以下の罰金刑が新設されました(改正法72条4号)。上記最終確認画面上での表示義務項目には、販売にかかる商品等の「分量」が明示され、その結果、定期購入に関しては、消費者が申込みを行う最終確認画面上で当該定期購入条件が明確に認識できるようにしなければならないものとされました。併せて、上記誤認表示等によって申込みをした場合における申込みの取消しを認める制度を新設し(改正法15条の4)、通信販売における契約解除への妨害行為の禁止も新たに規定されました(改正法13条の2「不実の告知の禁止」)。

加えて、ネット通販上で見受けられるいわゆるタイムセールに関しても、上記改正法12条6第1項の表示項目中に「申込期間の定め」(新設改正法11条4号)が新たに規定された結果、最終確認画面上に記載すべき項目を記載しない場合または事実と異なる「不実の表示」をした場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金または併科の対象となりました(新設改正法70条2号)[4]

これらは、いずれもネット通販におけるクレームの急増が立法の契機となっていますが、大きな背景には、社会の少子高齢化とそれを巧に利用した商法の横行への対応の必要性、令和4年4月1日施行予定の成年年齢の引下げといわゆる若年成年への関連悪質商法の増加への危惧、さらには経済のデジタル化と消費者取引の変化があるとされています[5]

ネット通販は、いまや企業活動における商品販売や役務提供の手段として不可欠のものと位置づけられており、上記改正特商法及び施行期日までに定められる関連省令やガイドライン等を踏まえ、自社の通販サイト(特に最終確認画面)の見直し作業を改めて行う必要があるものと思われます。ご不明な点は当事務所の各弁護士にまでお問合せください。

※なお、ネット通販と直接関係はしませんが、上記改正特商法においては、いわゆる「送り付け商法」への対策として、売買申込みに基づかないで(一方的に)送付した商品に関して、改正特商法第59条及び第59条の2により、改正前の特商法では原則として消費者が商品送付日から起算して14日間経過後に初めて処分等が可能であったものが(=14日経過後は商品送付者は返還請求ができない。)、改正特商法においては、消費者において「直ちに」処分等が可能(商品送付者は当初から返還請求できない。)等と規定が改正されました。かかる改正部分に関しては、令和3年7月6日から施行されています。(ちなみに、令和3年7月5日までは改正前の法律が適用され、同月5日までに届いた商品には改正特商法は適用されませんので、当該商品は使用せずにそのまま保管し14日間経過した後に処分すべきとなります。)。

≪弁護士 出縄 正人≫

[1] 消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/amendment/2021/

[2] 消費者庁 https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_transaction_cms203_210114_03.pdf

[3] 概要については、以下のHP参照。https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/amendment/2021/assets/consumer_transaction_cms202_210616_01.pdf

[4] 改正法の新旧対照表参照。https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/amendment/2021/assets/consumer_transaction_cms202_210616_04.pdf

[5] 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会報告書(令和2年8月19日)参照。https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/meeting_materials/assets/consumer_transaction_cms202_200819_03.pdf