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同一労働同一賃金を巡る最高裁判決と実務対応 「相応に継続的な勤務が見込まれる」の意義と更新上限条項に基づく雇用管理

弁護士石井 林太郎

1.はじめに
令和2年10月13日及び15日、正社員と非正規社員(有期契約労働者)の労働条件の相違が労働契約法旧20条(現パート有期法8条)に違反するか否かが争われた5件の事件について、それぞれ最高裁判決が出ました。
これらの判決は、いずれも、労働契約法旧20条(現パート有期法8条)の定める考慮要素に基づき、①問題となる待遇ごとにその待遇の目的・性質を個別に認定し、これを前提に、②職務内容(業務内容及び責任の程度)、③職務内容の変更の範囲(≒人材活用の仕組み。具体的には、配転の有無、人事評価制度の適用の有無など)及び④その他の事情に基づき、正社員と非正規社員との間で生じている待遇の相違の不合理性を判断しています。
今回は、「相応に継続的な勤務」が見込まれる非正規社員に対して扶養手当(≒家族手当)を支給しないことが不合理であるとの判断を示した日本郵便(大阪)事件(最判R2・10・15労判1229・67)を踏まえ、「相応に継続的な勤務が見込まれる」の意義とこれを踏まえた実務対応の一つとして、「更新上限条項」に基づく雇用管理のポイントについて解説します。

2.日本郵便(大阪)事件の概要と「相応に継続的な勤務が見込まれる」の意義
日本郵便(大阪)事件の事案における非正規社員(有期契約労働者)の中には、長期間雇用されている者も多くいましたが、非正規社員は、正社員と異なり、配達業務や窓口業務といった特定の業務にのみ従事することとされており、また、人材活用の仕組みについても正社員と非正規社員との間には相違があり(人事評価や配転の有無等)、少なくとも上記考慮要素の②(職務内容)や③(職務内容の変更の範囲)との関係では相当程度の相違が認められる事案でした。
しかしながら、最高裁は、上記考慮要素の①(待遇の目的・性質)について、「正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある 者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な 雇用を確保するという目的」であるとした上で、その趣旨は「相応に継続的な勤務が見込まれている」非正規社員にも妥当するとして、扶養手当に関する待遇差は違法であると判断しました。なお、日本郵便(大阪)事件で示された判断は扶養手当(≒家族手当)に関するものですが、病気休暇制度(私傷病で出勤できない場合に年次有給休暇とは別に特別の有給休暇を付与する制度)に関する待遇差についても同様の判断が示されています(日本郵便(東京)事件(最判R2・10・15労判1229・58)。
扶養手当(≒家族手当)については、②(職務内容)や③(職務内容の変更の範囲)に「顕著な相違」がある場合には待遇差も不合理とはならないとの判断を示した裁判例もありますが(学校法人中央学院事件(東京高判R2・6・24労経速2429・17)、上記最高裁判決の判断が示される以前の裁判例であり、また、「顕著な相違」といえるかどうかは評価の問題であることに照らすと、②(職務内容)や③(職務内容の変更の範囲)の相違を理由に待遇差の合理性を説明することは容易ではないといえるでしょう。
そのため、扶養手当や病気休暇のように、「継続的雇用の確保」が目的であると認定され得る制度については、上記のとおり、たとえ有期契約労働者であっても、「相応に継続的な勤務が見込まれる」有期契約労働者である限り、待遇差を設けることは違法であると判断される可能性があることに注意が必要です。
問題は、「相応に継続的な勤務が見込まれる」の解釈ですが、上記日本郵便(大阪)事件の原審(大阪高判平31・1・24労判1197・5)では、扶養手当と併せて待遇差の不合理性が争われていた年末年始勤務手当(繁忙期である年末年始に実際に勤務した場合に付与される特別手当)及び祝日給(祝日勤務時に特別割増率で算定される賃金を支給)に関する待遇差について、通算契約期間が「5年」を超える有期契約社員との間では不合理であるとの判断を示しています(なお、最高裁判決では、そのような契約期間の限定を設けることなくこれらの待遇差は不合理であると判断していますが、これは年末年始勤務手当及び祝日給という制度の趣旨・目的に関する解釈の相違によるものであると考えられます。)。
今後の判例の集積を待つことにはなりますが、いわゆる無期転換の対象者が契約通算期間5年を超える有期契約労働者であるとされていること(労契法18条)等をも踏まえると、「相応に継続的な勤務」か否かは、「5年」が一つの目安になるのではないでしょうか。

3.更新上限条項に基づく雇用管理による「相応に継続的な勤務が見込まれる」の解消
上記のとおり、「相応に継続的な勤務が見込まれる」か否かは雇用管理の問題ですので、扶養手当や病気休暇のような「継続的雇用の確保」が目的であると認定され得る制度については、「相応に継続的な勤務が見込まれる」との認定を受けることのないように雇用管理を行うことによりパート有期法8条違反の問題を解消することも可能です。今回は、そのような雇用管理の方法の一つとして、更新上限条項に基づく雇用管理について解説します。
更新上限条項に基づく雇用管理とは、有期契約労働者との雇用契約書や就業規則の中に「更新の上限は4回(5年)までとする」といった更新上限条項を定め、上限を超えた更新を拒むことをいいます。このような更新上限条項の意義については、労働契約上、更新の上限が明記されており、労働者がその意味するところを理解している場合には、労働者がその更新上限を超えて雇用契約が更新されることについての合理的期待(労契法19条2号)を持つことはなくなり(そのことを正面から判示した裁判例として京都新聞COM事件(京都地判H22・5・18労判1004・160)、その結果、客観的合理的理由の有無や社会的相当性(労契法19条柱書)を要求されるなく雇止めを行うことが可能となります(更新上限条項に基づく雇止めを認めた近時の裁判例として、福原学園(九州女子短期大学)事件(最判H28・12・1判時2330・84、社会福祉法人仙台市社会福祉協議会事件(仙台地判R2・6・19労経速2423・3)等)。
他方、更新上限条項付きの雇用契約を締結していた場合であっても、その内容について労働者への十分な周知・説明がない場合(錦城学園事件(東京地判H26・10・31労判1110・60)などには、更新上限条項の存在のみによって雇用継続に対する合理的期待を消滅させることはできません。
また、雇用継続に対する合理的期待の有無(あるいはその消滅)の判断に当たっては、雇用契約締結時の事情のみならず、雇止めされた有期雇用契約の満了時までの事情が総合的に考慮されますので、雇用開始後の日々の雇用管理の中で、労働者に更新上限を超えた雇用継続を期待させるような使用者の言動があった場合や、同一雇用管理区分にある有期契約労働者の中に更新上限を超えて雇用が継続している有期契約労働者がいる場合などの事情が存在する場合には、なお雇用継続に対する合理的期待が認められてしまうリスクがあります(カンタス航空事件(東京高判H13・6・27労判810・21))。
そのため、更新上限条項に基づき有効に雇止めを行うためには、単に有期契約労働者との雇用契約書や就業規則の中にそのような条項を定めるだけではなく、有期契約労働者に対してその内容を十分に説明して認識・理解させるとともに、その後の雇用管理でも、更新上限を超えて雇用されることについて有期契約労働者に期待を生じさせるようなことのないように更新上限条項に基づき雇用管理を運用していくことが重要です。