【ニュース】情報伝達・取引推奨規制に関する近時の動向
平成25年金融商品取引法(以下「金商法」)改正(平成26年4月1日施行)において、インサイダー取引規制の一形態として情報伝達及び取引推奨に関する規制(金商法第167条の2)が導入されました。同規制は、最終的な株式等の取引行為以前の時点に行われる情報伝達行為及び取引推奨行為を規制対象とする点に特徴がありますが、刑罰や課徴金納付命令の対象となるには、実際の取引行為が要件とされています(金商法第175条の2、同第197条の2第14号及び第15号)。詳しい改正概要については、当事務所の過去のトピックス(http://spring-partners.sakura.ne.jp/topic/405.html)をご覧いただくとして、本稿では、当該規制に関する近時の運用を概観したいと思います。
改正法施行後、情報伝達規制違反を理由とした証券取引等監視委員会による課徴金納付命令の勧告(金融庁設置法第20条第1項)はいくつか見受けられていたところでしたが、平成28年8月1日には、刑事告発に至った事案が現れました【注1】。これは、マザーズ上場の会社の役員が、重要事実(同事案では、同社の経常利益の予想値が公表されていた予想値と比較して黒字から赤字に転じる見込みであるという事実)の公表前に親族名義の株券を売付けたほか(金商法第197条の2第13号、第166条第1項第1号、同条第2項第3号)、同社の株券を売付けさせ損失の発生を回避させる目的をもって、親族及び知人に対し、前記重要事実を伝達し、その結果同人らが売付けを行ったという事案です(金商法第197条の2第14号、第167条の2第1項、第166条第1項第1号、同条第2項第3号)。同事案については、刑事告発という証券取引等監視委員会の積極的な姿勢に注目が集まりました。
また、平成28年10月28日には、「取引推奨規制」を適用した初の課徴金納付命令の勧告が出されました【注2】。同事案は、JASDAQ上場の会社との契約締結交渉者が、親族及び同僚に対して、同社の第三者割当増資についての重要事実に関し、情報伝達規制に違反したことのほか、別の親族に対しては、利益を得させる目的をもって同社株の買付けを勧めた結果、同人らが買付けを行ったという内容のものです(金商法第175条の2第1項、同第167条の2第1項)。
さらに、最近のものでは、平成28年12月9日の課徴金納付命令の勧告が挙げられます【注3】。これは、公開買付の対象株式発行会社の役員が、職務に関し公開買付者からの伝達により、公開買付者の業務執行決定機関が同社株式の公開買付けを行うことについての決定をしたという事実(公開買付け等事実)を知り、これを知人らに対して、利益を得させる目的をもって伝達し、その結果同人らが買付けを行ったという事案です(金商法第175条の2第2項、同第167条の2第2項)。なお、同事案は、併せて勧告対象とされた知人のうち一名に関し、金融商品取引業者等に該当しない者の「自己以外の者の計算」による内部取引に係る運用対価を課徴金の対象とする規定(金商法第175条第2項第3号ロ、課徴金府令第1条の21第6項)が適用された初の勧告事案でもありました。
以上が情報伝達・取引推奨規制に関する近時の動向です。今後も情報伝達・取引推奨規制違反に関する証券取引等監視委員会の運用姿勢が注目されるとともに、企業においては、従来のインサイダー取引防止措置にとどまらず、情報伝達・取引推奨規制対応も視野に入れた体制の構築が求められるところです。
【注1】http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2016/2016/20160801-1.htm
【注2】http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2016/2016/20161028-1.htm
【注3】http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2016/2016/20161209-1.htm
≪弁護士 荒内 智美≫