トピックス

【ニュース】有期労働契約の無期転換に向けた実務上の対応

 有期契約労働者との間で締結している労働契約の契約期間が通算して5年を超えた場合、労働者からの申込みより、有期労働契約が期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換することとされています(労働契約法第18条第1項。以下、当該制度を「無期転換制度」といい、無期転換制度により無期労働契約に転換した労働者を「無期転換労働者」といいます。)。

 無期転換制度に基づき契約期間の通算が開始されるのは、平成25年4月1日以後を初日とする有期労働契約からとなります。したがって、契約期間1年で更新が続けられている有期労働契約については、最も早い場合で、平成30年4月1日には、無期転換労働者から無期転換の申込みを受ける可能性があります。

 今回は、無期転換の申込みを受けるまでに検討・実施しておくべき対応について説明いたします。

① 有期契約労働者の就労・雇用管理の実態の確認

 まず、既存の有期契約労働者の就労実態として、以下の点を確認する必要があります。

・有期契約労働者の人数

・従事している職務の内容(臨時的・恒常的業務のいずれであるか、本来は正社員が担うべき責任ある業務に従事させていないか)

・所定労働時間

・契約期間

・勤続年数

・今後の働き方やキャリアに対する考え方

・正社員と比較した場合の諸手当・福利厚生の付与状況

 これらの事項を確認することにより、現在雇用している有期労働契約者が担っている役割や、無期転換申込権の発生時期を把握することができ、無期転換申込みを受けるまでに使用者として検討すべき課題が明らかとなります。

 また、近時、正社員と有期契約労働者との間で設けられている待遇格差の違法性について踏み込んだ判断をする裁判例が相次いでおりますので(大阪高裁平成28年7月26日判例タイムズ1429号96頁、東京高裁平成28年11月2日労働判例1144号16頁)、正社員と比較した場合の諸手当・福利厚生の付与状況についても今一度確認して頂く必要があります。

② 無期転換申込みを受けるまでに雇止めを行うことを検討されている場合

 有期契約労働者との雇用契約は、契約期間の満了に伴い雇止めにできるのが原則ですが、雇用継続に対する合理的な期待が発生している場合は、解雇権濫用法理が適用され、雇止めが認められない可能性があります(労働契約法第19条)。

 雇用継続に対する合理的な期待が発生しているか否かは、以下のとおり、これまでの就労・雇用管理の実態に照らして判断されます。雇用継続に対する合理的な期待が発生している状態の有期契約労働者に対して雇止めを実施する場合、当該期待の解消措置等、慎重な対応を事前に講じておくことが必要となりますので、無期転換申込みを受けるまでに雇止めを行うことを検討されている場合は、お早めに弊所までご相談下さい。

・契約更新の際、有期契約労働者と面談を行い、更新を希望するか否か意思確認を行っているか。

・契約期間の満了前に更新契約書を取り交わしているか。

・契約更新を多数回にわたって繰り返していないか。

・これまでの通算契約期間が長期間になっていないか。

・有期契約労働者に恒常的な業務を担わせていないか。

・これまでに、有期契約労働者に対する雇止めは行われてきたか。

・雇止めをしようとしている有期契約労働者に対して、次回も更新があると期待させるような言動をしていないか。

③ 無期転換後の労働条件の検討

 無期転換労働者の労働条件は、正社員と全く同一になるわけではなく、原則として、これまでと同一の労働条件が引き継がれることになります(労働契約法第18条第1項後段)。

 他方で、長期的な人材活用、無期転換労働者のモチベーション向上といった観点から、無期転換労働者の労働条件を積極的に見直していくことも考えられます。当該検討は、賃金、賞与、退職金、勤務地・職種等その他人事制度設計全体の在り方との兼ね合いを踏まえて行う必要がありますので、相応の検討時間を要することが想定されます。

 ④ 就業規則の改定

 上記のとおり、無期転換労働者の労働条件については、原則として、これまでと同一の労働条件が引き継がれることになりますが、ここで注意して頂きたいのは、既存の正社員就業規則において、例えば、「本就業規則の適用対象となる正社員とは、期間の定めのない労働契約を締結した者をいう。」と定義していた場合、無期転換労働者も当該定義に含まれるため、既存の正社員就業規則が無期転換労働者にも適用されることとなり、その結果、無期転換労働者の労働条件が正社員と同一になるとの結論を招きかねません。

 また、これまで有期契約労働者であった無期転換労働者には、「定年」に関する定めが存在しないため、新たに「定年」に関する定めを設ける必要があります(定年の定めを設けない場合、文字どおり「終身雇用」になるとの結論を招く可能性も否定できません。)。

 これらの事態を回避するためには、労働者から無期転換申込みを受けるまでに、就業規則の改定を行う必要があります。

 弊所では、無期転換制度に対応した就業規則の改定対応はもちろん、最新の法改正や裁判例の内容を踏まえた労務対応も行っておりますので、お気軽にご相談下さい。

以上

《弁護士 石井 林太郎》