著作権法改正・写り込みに係る権利制限規定の改正
令和2年著作権法改正により、いわゆる写り込みに係る権利制限規定と呼ばれている、付随対象著作物の利用に関する規定の適用範囲が拡充されました(令和2年10月1日施行)。
写り込みに係る権利制限規定とは、例えば、人物や街の写真を撮影した場合の背景に、著作物である絵画やキャラクターのイラストが写り込んでいた場合に、著作権侵害行為とならないようにすることを目的に、権利制限規定の一つとして平成24年改正により創設的に設けられた規定です。
平成24年改正では許容される範囲が一定範囲に限定されていましたが、スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及、動画投稿・配信プラットフォームの発達等の社会実態の変化を受け、令和2年の改正では適用範囲が拡充されることとなりました。
改正の前後を比較すると、許容される範囲につき、次のような点で変更があります(※1)。
(1)対象行為
改正により対象行為が「写真撮影・録音・録画」から、「複製・(複製を伴わない)伝達行為全般」に改正されました。これにより、スクリーンショット・生配信・CG化などが広く含まれることとなりました。(また対象行為の拡大に伴い、対象となる支分権も「複製及び翻案」から「いずれの方法によるかを問わず、利用」に変更されています。)
(2)著作物創作要件
改正前は利用者が「著作物の創作」をする場合に限定されていましたが、改正により著作物の創作以外の場合にも写り込んだ著作物を利用することができるようになりました。これにより、創作性のない固定カメラでの撮影やスクリーンショットによる写り込みも利用可能となりました。
(3)分離困難性
メインの被写体から「分離困難」な創作物の写り込みだけが適用対象とされていましたが、改正により、分離困難でなくとも「メインの被写体に付随する著作物」であれば適用対象に含められることとなりました。これにより、キャラクターのぬいぐるみを抱かせて子どもの写真を撮影する場合等が対象に含まれることとなりました。
もっとも、「正当な範囲内」という要件を設け、濫用的な利用(経済的利益を得るためにあえて著作物を入れこむ行為等)を防止することで調整が図られています。
(※1)その他、本条の改正では、「軽微な構成部分」の考慮要素も明記されることとなりました。
-参考条文
【改正前】
(付随対象著作物の利用)
第30条の2 写真の撮影,録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて,当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は,当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし,当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。
2 (略)
【改正後】
第30条の2 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 (略)
その他の改正については、すでに当事務所令和2年6月18日付トピックス【ニュース】著作権法改正 | スプリング法律事務所 (spring-partners.com)でも概観をご説明させていただきましたが、令和2年の改正は多岐にわたる大改正であり実務への影響も非常に大きなものです。著作権法に関するお困りごとがございましたら、ぜひ当事務所にご相談下さい。
・関連リンク
文化審議会著作権分科会(第55回)第55回 | 文化庁 (bunka.go.jp)