判例紹介

最高裁による初めての「医行為」解釈と医療業界への影響

弁護士中野 丈

1 事案の概要と経緯

2020年9月16日、最高裁が「医行為」の定義と該当性判断基準について、初めて判断を示しました。

問題となった事案は、医師でない者がタトゥー施術を行っていたことが医師法に違反するものとして起訴された刑事事件ですが、最高裁の判断がなされるに至るまでの経緯や「医行為」解釈の問題点については、過去の本サイトのトピックス『タトゥー施術と医師法違反の成否』(https://spring-partners.com/topics/1645/)をご覧ください。

今般、最高裁は、医師以外の者によるタトゥー施術が医師法に違反しないと判断した大阪高裁の判決に対する、検察官の上告について、適法な上告理由がないことが明らかであるとして、判決より簡易な手続きである決定にてこれを棄却して決着をつけました。

本来この結論を導くために「医行為」の解釈を示す必要は必ずしもないのですが、最高裁は、「医行為」にあたるかどうかにつき医療及び保健指導に属する行為か否かを問うべきでないと主張していた検察官の「所論に鑑み」として、職権であえて「医行為」の解釈を正面から示しました。

2 「医行為」とは

「医行為」とは、「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」だというのが今回なされた最高裁の解釈です。

従前、「医行為」の定義として、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」が要素であるという点に争いはありませんでしたが、「医療及び保健指導に属する行為」(医療関連性)という要素の要否は問題とされていました。本件一審の地裁判決は「医療関連性」は必要としませんでしたが、本件控訴審の高裁判決は「医療関連性」を必要としました。

本件最高裁決定は、「医行為」について、医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行えば保健衛生上危害を生ずるおそれがあること(「保健衛生上の危険性」)のみならず、その前提ないし枠組みとして、医療及び保健指導に属する行為であること(医療及び保健指導の目的の下に行われる行為で、その目的に副うと認められること。「医療関連性」)が必要とした大阪高裁の解釈とほぼ同じ趣旨だと思われます。

 

3 なぜ「医療及び保険指導に属する」ことが要件となるのか

ではなぜ、医療及び保健指導に属する行為であることが、「医行為」に当たる前提とされたのでしょうか。

最高裁は、「医業」(=医行為を業として行うこと)を医師以外が行うことを禁止する医師法第17条の制度趣旨を、医師法の目的や医師法が定める医師の職分から導くことで、これを説明しました。

医師法第1条は、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。」と定めています。

ここから最高裁は、医師法は「医療及び保健指導」を医師の職分とし、この職分が果たされることによる公衆衛生の向上及び増進・国民の健康な生活確保が、医師法の目的だとします。

そして、医師法にて医師国家試験(医師法第2条、同9条等)や医師免許制度(医師法第6条等)が設けられているのも、無資格者による医業が禁止(医師法第17条)されているのも、同じくこの目的を達成するためだとします。

つまり、医師法第17条が医業を医師に独占させるのは、医師の職分である「医療及び保健指導」を無資格者が行うことによって生ずる保健衛生上の危険を防止するためのものだと解します。

そうであるとすれば、医師法により規制されるべき対象は、「医療及び保健指導」に属する範囲ということになり、従って、無資格者が行うことが禁止される「医行為」も、「医療及び保健指導」に属することが前提となるということが導かれます。

なお、以上の論理も、大阪高裁が示していたものとほぼ同じだと思われます。

4 どのように「医行為」該当性を判断するのか、その基準は?

では、ある行為が「医行為」にあたるか否か、つまり、医療及び保健指導に属するか否かや、保健衛生上危害を生ずるおそれがあるか否かについては、どのように判断されるのでしょうか。

これについて最高裁は、「当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で、社会通念に照らして判断する」のが相当としました。

つまり、①行為の方法、②行為の作用、③行為の目的、④行為者と相手方との関係、⑤行為時の具体的状況、⑥行為時の実情、⑦行為に対する社会の受け止め方という複数の要素が判断要素として挙げられました。

なお、最高裁が、③④⑤を判断要素としているのは、①や②が同じ行為であっても、③④⑤によって、医療及び保健指導に属する行為か否かや、保健衛生上危害を生ずるおそれがあるか否かが異なりうるからだとされています。

また、前述の通り、医師法第17条は、医業を医師に独占させることで保険衛生上の危険を防止しようとするものであるところ、そもそもその行為を医師が独占して行うことの可否や当否等も判断する必要があるために、⑥⑦も判断要素となるとしています。

5 タトゥー施術についての検討

最高裁は、彫り師のタトゥー施術について、⑥⑦の要素の検討をし、「医療及び保健指導に属する」行為であるとは認められないため、「医行為」に当たらないとしました。

すなわち、タトゥー施術は、装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたものであって、医療及び保健指導に属する行為とは考えられてこなかったものであるとしました(主に⑦についての検討)。

また、タトゥー施術は、医学とは異質の美術等に関する知識及び技能を要する行為であって、医師免許取得過程等でこれらの知識及び技能を習得することは予定されておらず、歴史的にも、長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があるとしました(主に⑥についての検討)。

最高裁は、上記の検討から、タトゥー施術については、医師が独占して行う事態が想定し難いとし、そのような事情の下では、社会通念に照らして、「医療及び保健指導に属する」行為であるとは認め難いとしています。

なお、本件最高裁決定書では、決定の理由を補足したある裁判官の個人的意見も述べられています(草野耕一裁判官の補足意見)。タトゥー施術を医師のみが行える「医行為」に該当する解釈を取ると、タトゥー施術に対する需要が満たされることのない社会を強制的に作出し、国民が享受し得る福利の最大化を妨げることにもなってしまう。それ故、タトゥー施術に伴う保健衛生上の危険防止は、医師法ではなく別の立法によるべき、というものです。「医行為」につき医療及び保健指導に属することを前提とするとタトゥー施術に伴う保健衛生上の危険を防止できなくなる、といった検察官の主張を受けてのことだと思われますが、一定の国民が認めるタトゥーの意義にも配慮した、裁判官の本音も垣間見える気がします。

6 医療業界への影響は?

これまで、レーザー脱毛機器を操作しての脱毛行為、電動式アートメイク器具を使用して皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為、しみ・そばかす・ほくろ・あざ・しわ等を除去するためにフルーツ酸等の化学薬品を皮膚に塗布しての表皮剥離行為、腸内洗浄機により弱酸性水を腸内に注入して便や液体を排泄させる行為等のほか、在宅療養における痰の吸引行為、インシュリンの自己注射行為、AED(自動体外式除細動器)による応急処置の行為等について、医師法第17条による規制との関係をどう評価すべきかという点が問題とされてきました。

これらの議論については、その多くが行政通知によって規律されてきており、実際にこれらの通知による判断に大勢が従ってきたというのがこれまでの成り行きではないでしょうか。

タトゥー施術に関しても、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」を、医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反するとした行政通知(2001年11月8日医政発105号。以下「13年行政通知」と言います)があり、これまで多くの人や官憲が従ってきました。本件は、上記通知に従わなかった本件の彫り師の行為が刑事事件に発展したものと推測されるところです。

今回、最高裁の判断が示されたことで、これまでの多くの人が従ってきた行政通知の医行為該当性の判断については、必ずしも正しいとは言い切れないものが出てくる可能性はあるかもしれません。

もっとも、保険衛生上危害を生ずるおそれがあることが明らかな行為で、これまで一般的に、医師によって業として実際に行われてきたものについては、今回の最高裁が示した判断基準によっても、「医行為」に当たらないと判断される可能性は小さいように思われます。

7 脱毛施術は医行為?

医療機関のみならず、医療機関ではない多数のエステティックサロンにおいても行われている脱毛施術を例に検討してみましょう。

前記の「13年行政通知」では、「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線またはその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」は医師が行うのでなければ保健衛生上危害の生ずるおそれのある行為であり、医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反するとされています。

一口に脱毛施術といっても、①行為の方法、②行為の作用からそもそも差異がありますが、保健衛生上危害を生ずるおそれがあると言える脱毛施術があることは確かでしょう。「13年行政通知」にある毛乳頭とは、毛の基となる毛母細胞に栄養を供給し毛細血管も入り込んでいる部分であり、皮脂腺開口部とは、肌の乾燥を防止する皮脂を分泌する皮脂腺から毛穴に通じる部分です。これらを破壊すれば生理機能の一部が失われることは想像がつきます。

なお、エステティック業界の健全化とより一層の発展と社会的地位の向上を目的に設立されたとされる一般社団法人日本エステティック振興協議会の自主基準では、除毛・減毛を目的に皮膚に負担を与えず毛の幹細胞を破壊しない範囲のものが、エステティックサロンにて行い得る施術であると捉えられているようです。もし、この範囲内であれは保健衛生上危害を生ずるおそれがないと言えるのであれば、そのような脱毛施術は医行為には該当しない行為ということになりますので、医療機関以外のエステティックサロンが行っていても医師法第17条違反ではないということになります。

一方、保健衛生上危害を生ずるおそれがあることを前提とした施術について、それが医療及び保健指導に属する行為といえるか否かについてはどうでしょうか。この点、実際に多くの医療機関において美容目的の脱毛施術が行われており、全国の150以上の医療機関で構成される脱毛を専門に研究する学会もあるようです。このような事情からは、③行為の目的が一般的な美容目的等であれば、少なくとも、⑥行為時の実情、⑦行為に対する社会の受け止め方に照らして、そのような脱毛施術が医療及び保健指導に属する行為でないとは言い難いのではないでしょうか。④行為者と相手方との関係、⑤行為時の具体的状況といった、最高裁が示した他の判断要素によるところもあるでしょうが、一般美容目的の脱毛施術で、保健衛生上危害を生ずるおそれがあると言えるものについては、これまで通り医行為に該当すると判断されるものと考えられます。

以上