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「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(内閣官房および公正取引委員会)の概要について

弁護士福山 靖子

政府の「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(令和3年12月27日 内閣官房・消費者庁・厚生労働省・経済産業省・国土交通省・公正取引委員会)に基づく価格転嫁対策の一環として、公正取引委員会は、令和5年5月から「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「特別調査」といいます。)を実施しました(令和5年12月27日に調査結果を公表)。

そして、特別調査の結果、原材料価格やエネルギーコストと比べて労務費の価格転嫁が進んでいなかったことをふまえ、内閣官房と公正取引委員会は、令和5年11月29日、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(以下、「本指針」といいます。)を公表しました。

本指針は、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストのうち、労務費の転嫁に係る価格交渉について発注者及び受注者それぞれが採るべき行動/求められる行動を12の行動指針として取りまとめたものです。

当該12の行動指針の概要は、以下のとおりです。

1 発注者として採るべき行動/求められる行動

★発注者としての行動①

①労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定すること、②経営トップが同方針又はその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと、③その後の取組状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップが更なる対応方針を示すこと。

★発注者としての行動②

受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。

★発注者としての行動③

労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠があるものとして尊重すること。

★発注者としての行動④

労務費をはじめとする価格転嫁に係る交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること。

★発注者としての行動⑤

受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと。

★発注者としての行動⑥

受注者からの申入れの巧拙にかかわらず受注者と協議を行い、必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること。

2 受注者として採るべき行動/求められる行動

★受注者としての行動①

労務費上昇分の価格転嫁の交渉の仕方について、国・地方公共団体の相談窓口、中小企業の支援機関(全国の商工会議所・商工会等)の相談窓口などに相談するなどして積極的に情報を収集して交渉に臨むこと。

★受注者としての行動②

発注者との価格交渉において使用する労務費の上昇傾向を示す根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いること。

★受注者としての行動③

労務費上昇分の価格転嫁の交渉は、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングなどの機会を活用して行うこと

★受注者としての行動④

発注者から価格を提示されるのを待たずに受注者側からも希望する価格を発注者に提示すること。発注者に提示する価格の設定においては、自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮すること。

3 発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動

★発注者・受注者共通の行動①

定期的にコミュニケーションをとること。

★発注者・受注者共通の行動②

価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者と双方で保管すること。

公正取引委員会は、相当数の取引先について協議を経ない取引価格の据置き等が確認された場合には事業者名を公表するとの方針を示しております。当該事業者名の公表は、独占禁止法に違反すること又はそのおそれを認定するものではないと明示されていますが、公表された場合の企業のレピュテーションリスクは避けられません。

本指針の公表により、今後さらにサプライチェーンにおける労務費の価格転嫁交渉が後押しされてくることが予想されますので、発注者及び受注者のいずれの立場からも本方針に留意しておく必要性は高いものと思われます。