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「事業成長担保権」の新設について ~不動産担保を中心とした融資実務は変わるか~

弁護士髙石 竜一

金融庁が新たな担保制度である「事業成長担保権」の創設を柱とする新法「事業性融資推進法案」(仮称)を2024年の通常国会に提出する予定であることが、一部報道機関により報道されました(日本経済新聞2023年12月1日)。

これまでの金融庁の検討内容を参照すると、「事業成長担保権」とは、不動産・動産等の有形資産のみならず、事業活動から生じる将来キャッシュフローを加味したのれん等の無形資産をも含む事業全体に対して設定する担保権であると定義されるものと考えられます。端的にいえば、事業者が金融機関から融資を受ける際、事業全体を担保として差し入れ、事業者に債務不履行が発生した場合には、金融機関の担保権の実行により当該事業全体の譲渡が実施され、金融機関はその譲渡代金から融資債権を優先的に回収するという制度といえます。

従来の融資実務は、不動産をはじめとする有形資産を担保とする融資が中心とされてきましたが、スタートアップ等の成長段階にある企業においては担保に適する有形資産を保有していない場合も多く、そのために十分な融資が受けられないという問題がありました。また、スタートアップ等が株式・新株予約権発行により資金調達を行うことも日常的にみられますが、そもそも株式等の引き受け手が見つかるか、見つかったとしても必要な資金の全額を調達できるかという問題があり、仮に資金調達目的が達成できた場合であっても、多数の株式の発行により会社の支配権が移転してしまい、従来の経営者の方針を貫徹することができなくなる可能性もあります。

新設が予定されている「事業成長担保権」においては、担保に適する有形資産を保有しない企業であっても、融資を受けることにより事業の成長が見込まれる場合には、事業全体と担保とすることにより、その事業価値に見合った金額の融資を受けることができるようになる可能性があります。他方、金融機関にとっては、万が一融資が焦げ付いた場合であっても、事業譲渡の対価から優先的に返済を受けることができるため、これまでよりも積極的にリスクをとって成長企業へ投資することが可能になると考えられます。

「事業成長担保権」に関する現段階での議論については、下記資料をご参照ください。

・金融審議会「事業性に着目した融資実務をさせる制度のあり方等に関するワーキング・グループ報告」(2023年2月10日)
  https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20230210/01.pdf

・2023年3月9日開催 第9回規制改革推進会議スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ 資料1(金融庁作成)
  https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/230309/startup09_01.pdf

「事業成長担保権」の具体的な運用については、今後の制度設計や実務の集積を待つ必要がありますが、これまでの不動産担保を中心とした融資実務に大きな変革をもたらす可能性を秘めた制度といえます。

「事業成長担保権」の実務は、借り手であるスタートアップ等の事業者、貸し手である金融機関のほか、前記2023年2月10日金融審議会報告によれば「事業成長担保権」の設定は信託契約によるとされていることから信託会社が担うこととなります。さらには、前記2023年2月10日金融審議会報告によれば、債務不履行が発生し「事業成長担保権」が実行される場合には、事業経営権・財産処分権が裁判所によって選任される管財人に専属することが予定されています。当事務所では、全ての弁護士が常時法律知識をアップデートすべく研鑽を積んでおり、かつ、スタートアップ等事業者、金融機関及び信託会社に対する法的助言の実績、並びに、破産管財人としての豊富な経験を有する弁護士が多数在籍しております。「事業成長担保権」についてご関心を有する関係者の皆様におかれましては、ぜひ当事務所までご相談ください。

以上