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会社の組織再編手続における反対株主の株式買取請求の要件

弁護士平石 孝行

会社が事業譲渡等(事業の全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、他の会社の事業の全部の譲り受けなど、会社法第467条1項1号~4号に掲げる行為)、吸収合併等(吸収合併、吸収分割又は株式交換)、新設合併等(新設合併、新設分割又は株式移転)を行う場合には、一定の例外を除き、株主総会の承認決議が必要です(事業譲渡等については会社法第467条1項、吸収合併等における消滅株式会社等については会社法第783条1項、吸収合併等における存続株式会社等については会社法第795条1項、新設合併等における消滅株式会社等については会社法第804条1項)。そして、この株主総会の決議を要する場合において、当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該行為に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)は、当該行為を行う株式会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(事業譲渡等の場合は会社法第469条1項・2項、吸収合併等における消滅株式会社等については会社法第785条1項・2項、吸収合併等における存続株式会社等については会社法第797条1項・2項、新設合併等における消滅株式会社等については会社法第806条1項・2項)。

しかしながら、反対する旨の通知の具体的な形式や内容については特段の法令の定めがないため、株主が「反対通知」という形式をとらずに反対の意思を当該株式会社に表示した場合に、「反対株主の株式買取請求」ができるのか問題となることがあります。

一例ですが、吸収合併消滅株式会社の株主が、当該会社の株主総会招集通知に同封された委任状用紙に、当該議案の賛否欄の「否」に丸印をつけて「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示して下さい)」と付記して提出した事案において、名古屋高等裁判所は、当該委任状は、委任状の宛先(代理人)に対する指示であって吸収合併消滅株式会社(株主総会を開催した会社)に向けられたものではなく、この付記があることから当該吸収合併に反対する旨の意思が当該委任状に表明されているということはできないとして、「反対株主」に当たらないと判断しました。

しかし、最高裁判所第一小法廷(令和5年10月26日決定)は以下の理由により上記高等裁判所の判断を覆し、事件を原々審に差し戻す旨の決定をしました。

『(反対株主の株式買取請求のために株主総会に先立って株主が反対通知をすることを要する旨規定している規定)の趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。』

つまり、株式買取請求権の要件が定められた法の趣旨に鑑みて、吸収合併等を行おうとする会社が、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会が与えられていると認められれば、反対通知の書面の形式は必ずしも明確な「反対通知書」のようなものである必要はないというものであり、法解釈論としては合理的な内容であると思います。ただ、このような紛争に発展しないよう、できるだけ株式買取請求権の要件を満たすことが明白な形式及び内容の通知書を発送することが望まれます。

詳細は裁判所のウェブサイト内の裁判例検索のページ(以下URL)にてご確認ください。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search2

(文責:弁護士平石孝行)