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消費者裁判手続特例法の施行について

弁護士山口 源樹

令和4年10月1日、改正「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(いわゆる「消費者裁判手続特例法」。以下、単に「特例法」といいます。)が施行されます。なお、同年6月1日に施行された改正消費者契約法の概要については以下をご覧ください。

消費者契約法の改正案が国会に提出されました。 | スプリング法律事務所 – SPRING PARTNERS (spring-partners.com)

消費者被害には、同種の被害が拡散的に多発し、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差により、消費者自らその被害の回復を図ることには困難を伴う場合があるという特性があります。特例法では、その財産的被害を集団的に回復するため、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行することができるとすることにより、消費者の利益の擁護を図ること等が目的として定められています。
特例法の改正のポイントは以下のとおりです。

1. 共通義務確認訴訟の対象範囲の拡大
前提として、特例法に基づく消費者団体訴訟制度においては、消費者団体による共通義務確認訴訟の後に、支払対象者や支払額を確定する対象債権の確定手続きを行うという二段階の手続きが予定されています。
改正前の特例法では、精神上の苦痛を受けたことによる損害(慰謝料)については、一段階目の共通義務確認の訴えを提起することができないとされていましたが、改正により、
① その額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通するものであり、かつ、
② ⅰ)現行法上対象となる損害に係る請求(財産的請求)と併せて請求されるもの、又は
ⅱ)事業者の故意によって生じたもの
のいずれかに該当する場合には、慰謝料について、共通義務確認の訴えを提起することが可能になります(改正特例法第3条第2項第6号)。
この改正により、例えば、大学入試の受験生が事前説明なく性別等により一律に得点調整を受けたというような事案で、受験料相当額等とあわせて請求される慰謝料や、事業者が故意に、消費者本人の同意なく、その個人情報を名簿屋等に売却したような事案における慰謝料などを請求し得ると考えられています。

2. 対象となる被告の追加
改正前の特例法では、共通義務確認訴訟の被告となり得る者は「事業者」に限定されておりました。
しかし、自らの事業を行っているのではない、法人である事業者の代表者や従業員等の個人は、これに該当しないため、悪質商法事案で、これらの者が主導的役割を果たしたといえるような場合であっても、「事業者」といえなければ被告とすることができないという問題点が指摘されておりました。
改正により、
① 事業者の被用者が消費者契約に関する業務の執行について第三者に損害を加えた場面(民法第715条の使用者責任が適用される場面)で、
② 事業者に故意又は重過失があり、かつ、
③ 被告となる事業監督者・被用者に故意又は重過失がある
場合には、「事業監督者」、「被用者」として上記の者を被告とすることが可能となりました(改正特例法第3条第1項第5号・第3項第3号)。

3. 和解の早期柔軟化
改正前の特例法においても、一段階目の手続である共通義務確認訴訟における和解は認められていましたが、その対象は「共通義務の存否」に限定されていたため(改正前特例法第10条)、柔軟かつ早期の紛争解決が困難となっているとの指摘がありました。
今回の改正により、和解対象の限定を廃止することで、例えば共通義務の存否を明らかにしないままに和解金を支払う内容の和解を行うことができるようになるなど様々な和解が可能となりました。

4. 消費者への情報提供方法の拡充
改正前の特例法では、まず、団体において、上記二段階目の手続において、知れている対象消費者に対して団体への授権に必要な情報を個別通知するとともに、公告(団体のウェブサイトへの掲載等)をすることとされていました(改正前特例法第25条、第26条)。
また、相手方である事業者は、団体の求めがあれば、対象消費者の範囲等の官報公告事項を公表(事業者のウェブサイトへの掲載等)し(改正前特例法第27条)、さらに、内閣総理大臣は、判決等に関する情報を公表(改正前特例法第90条)することが予定されていました。
もっとも、消費者にしてみれば、初見の団体からの通知よりも、もともと関係のある事業者から通知が行われた方が受け入れやすい場合もあるなど、事業者から通知することが望ましい場合も多いと指摘されている状況でした。
今回の改正により、事業者等は、団体からの求めがあるときは、知れている対象消費者等に対して個別に通知(相手方通知)をする義務も負うこととされました(改正特例法第28条)。
また、団体は、従来どおり事業者等から情報開示を受けて自ら通知を行うか、それとも今回新設された相手方通知を事業者等に求めるのかの方針を検討するため、事業者等に対して、対象消費者等の数の見込み、知れている対象消費者等の数及び相手方通知をする時期の見込み等の事項を照会し、回答を求めることができることとされました(改正特例法第30条)。
事業者等は、相手方通知を行った場合は、相手方通知をしたときから1週間以内に、団体に対して相手方通知の結果を通知しなければなりません(改正特例法第28条第3項)。

その他の改正事項や具体的な解説については以下の消費者庁や国民生活センターのHPもご参照ください。

≪弁護士 山口源樹≫