令和5年著作権法改正(令和5年5月26日公布)の概要
令和5年に開かれた第211回国会において、著作権法の一部を改正する法律案が可決され、公布されました。
今般の著作権法改正は、令和3年7月、文部科学大臣より文化審議会に対し「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」諮問がなされたことに基づき、文化審議会著作権文化会法制度小委員会が令和5年1月にまとめた報告書を踏まえた改正であり、下記3点に関する措置が法制化されたものです。
○立法又は行政の目的のための内部資料としての公衆送信等を可能とする措置
○未管理公表著作物等の利用に関する裁定制度を創設する等の措置
○著作物等の侵害に対する損害賠償額の算定の合理化を図る措置
ここでその概要を紹介します。
第1 立法又は行政の目的のための内部資料としての公衆送信等を可能とする措置
① 主な内容
著作物等は、立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合等には、その必要と認められる限度において、当該内部資料の利用者間で公衆送信等を行うことができることとする。
② 改正のポイント
これまでも、立法・行政目的のための内部資料や裁判手続のための複製は著作権者等の許諾を得ずに行うことができましたが、デジタル化に対応するため、今般の改正により特許審査等の行政手続や行政審判に必要となる公衆送信などを可能としました(民事訴訟手続に関しては令和4年改正で措置済み)。
第2 未管理公表著作物等の利用に関する裁定制度の創設等
① 主な内容
公表された著作物等のうち、「未管理公表著作物等」(著作権等管理事業者による管理が行われているもの又は当該著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報の公表がされているもののいずれにも該当しないもの)を利用しようとする者は、文化庁長官が定める措置をとったにもかかわらず、当該未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思が確認できなかったときは、文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託することにより、裁定において定める期間(上限3年)に限り、当該未管理公表著作物等を利用することができる。
文化庁長官は、「補償金管理業務」(著作権者不明等の場合の裁定、補償金の受領、管理、支払等に関する業務)を行う「指定補償金管理機関」を指定することができ、著作権者不明等の場合の裁定等により供託することとされた補償金は、指定補償金管理機関に支払われるものとする。
② 改正のポイント
著作物の利用の可否や条件に関する著作権者等の意思が確認できない著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額の補償金を供託することにより、著作権者等からの請求があるまで時限的に著作物等を利用できる制度が創設されます。文化庁は、一般社団法人又は一般財団法人で補償金管理業務を行う機関を指定します。
今般の改正により、適正な手続・補償のもとに円滑・迅速な著作物等の利用がなされることが期待されます。
第3 著作物等の侵害に対する損害賠償額の算定の合理化を図る措置
① 主な内容
著作権等の侵害者が譲渡した物の数量等に基づく損害額の算定について、著作権者等の販売等の能力を超える部分に係る数量等があるときは、これらの数量に応じた著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額に加えることができるものとする。
② 改正のポイント
これまでも、著作権侵害に対する損害賠償請求については、以下の通りの著作権者の損害の立証負担を軽減する規定は存在しています。
・侵害品の譲渡等数量に基づき損害額を算定
・侵害者の得た利益を損害額と推定
・ライセンス料相当額を損害額として請求可
しかし、著作権者等の販売等の能力を超える等の数量についてライセンス料相当額が認められるのか、ライセンス料相当額の認定にあたってライセンス機会を喪失させた等の具体的な事情が裁判実務上斟酌されているか不明確である、との問題が提起されておりました。
今般の改正により、
・著作権者等の販売等の能力を超える等の部分の損害をライセンス料相当額として損害額に加えることができる
・裁判所は、著作権侵害を前提とした著作件等行使の対価の交渉額を考慮できる
上記2点が明文化され、権利侵害に対する被害回復に実効的な対応策が取れるように法整備がされました。
第4 施行期日
第1及び第3については令和6年1月1日から施行、第2については公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。
第5 参考URL
「著作権法の一部を改正する法律案(概要)」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/230308-mxt_hourei-000028109_1.pdf
「著作権法の一部を改正する法律案(要綱)」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/230308-mxt_hourei-000028109_2.pdf
【弁護士 新保 雄司】