ニュース

賃金のデジタル払い(資金移動業者の口座への賃金支払)について

弁護士山口 源樹

昨今のキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化の流れを受けた労働基準法施行規則の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第158号)が令和5年4月1日に施行されました。これにより、いわゆるデジタルマネーによる賃金の支払いが可能となりました。

1.デジタル払いの概要

賃金は、通貨により直接支払うことが原則(労働基準法第24条第1項本文)ですが、例外として、労働者の同意を得た場合には、①当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み又は②当該労働者が指定する金融商品取引業者に対する当該労働者の預り金への払込みにより賃金を支払うことも認められています(労働基準法第24条第1項ただし書き、労働基準法施行規則第7条の2第1項)。

上記省令の施行により、上記例外について定める労働基準法施行規則第7条の2が改正され、新たに、賃金の支払方法として、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)第36条の2第2項に規定する第二種資金移動業を営む資金決済法第2条第3項に規定する資金移動業者であって、次のイ~チの要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた者のうち、当該労働者が指定するものの第二種資金移動業に係る口座への資金移動により賃金を支払うことが可能となりました(改正労働基準法施行規則第7条の2第1項3号)。

イ 賃金支払に係る口座の残高(以下「口座残高」という。)の上限額を100万円以下設定していること又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること

ロ 破産などにより口座残高の受取が困難となったときに、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済することを保証する仕組みを有していること

ハ 労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により口座残高に損失が生じたときに、その損失を補償する仕組みを有していること

ニ 最後に口座残高が変動した日から、特段の事情がない限り、少なくとも10年間は労働者が口座残高を受け取ることができるための措置を講じていること

ホ 賃金支払に係る口座への資金移動が1円単位でできる措置を講じていること

へ ATMを利用すること等、通貨で賃金の受取ができる手段により、1円単位で賃金の受取ができるための措置及び少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができるための措置を講じていること

ト 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること

チ 賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること

厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者は令和5年4月1日以降、随時一覧表の形式で公表される予定ですので以下HPをご参照ください。

指定資金移動業者一覧

2.使用者が講ずべき措置

改正労働基準法施行規則第7条の2第1項柱書ただし書によると、デジタル払いの導入のためには、

・銀行口座への振込みや証券総合口座への払込みの方法による賃金の支払いを選択できるようにすること

・資金移動業者における上記イ~チの要件に関する事項について説明をした上で、デジタル払いによることの同意を受けること

が必要とされております。

また、「賃金の口座振込み等について」(局長通達2)(令和4年11月28日基発1128第4号)において、

・事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者と、賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した労使協定の協定を締結すること

も必要であるとされております。

使用者が説明すべき具体的事項に関しては、「労働基準法施行規則の一部を改正する省令の公布について」(局長通達1)(令和4年11月28日基発1128第3号)にその方向性が示されております。

また、併せて厚生労働省より公開されている同意書のひな形(同意書の様式例(局長通達2の別紙))についてもご参照ください。

その他本改正に関する具体的な説明は厚生労働省の以下HPもご参照ください。

資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

事業者の方々におかれましては、デジタル払いの導入を検討することもあろうかと存じます。

当事務所では、この改正を踏まえたご相談もお受けしておりますので、お悩みの方はお気軽にお問い合わせください。

≪弁護士 山口源樹≫