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インターネット上の違法・有害な投稿等への対応~令和3年改正プロバイダ責任制限法に関連して~

弁護士髙石 竜一

昨今、インターネット上の書き込みや投稿が企業の経営に大きな影響を及ぼす事例が、マスメディア等により多数報じられております。いわゆるB to Cの企業が、消費者によるインターネット上の投稿等をきっかけとして、社会的信用を低下させてしまうような事例が典型的ですが、スマートフォンやコンピュータを通じて誰もが容易にインターネット上で投稿等を行うことができる現代においては、いつ、いかなる企業がインターネット上の投稿等の対象となるかもしれず、あらゆる企業にとって、インターネット上の投稿等への対応は対岸の火事とはいえない状況にあります。とりわけ、インターネット上に虚偽の投稿等が行われ、その内容が悪質なものであるような場合には、当該投稿等の拡散により、企業にとって回復しがたい信用毀損が発生するリスクが高まります。

そこで、本稿においては、1.インターネット上の違法・有害な投稿等への対応方法を概観するとともに、2.その具体的な手続きや手続きに要する時間について、概説いたします。また、その中で、インターネット上の違法・有害な投稿等への対応に際して重要となる令和3年改正「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(令和4年10月1日施行、以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)についても、適宜解説いたします。

1.インターネット上の違法・有害な投稿等への対応方法

インターネット上の違法・有害な投稿等により権利を侵害された企業が当該投稿等に対して採り得る対応は、大きく分けて以下の2通りあります。

⑴違法・有害な投稿等の削除請求

⑵違法・有害な投稿等の発信者情報の開示請求及び当該発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求

⑴違法・有害な投稿等の削除請求

インターネット上の違法・有害な投稿等により、企業の評価が低下し、又は低下する恐れがある場合、当該企業としては、まずもって、当該違法・有害な投稿等をインターネット上から削除してもらいたいと考えるものと思われます。

このような場合に、当該企業は、人格権(注1)に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権により、当該投稿がされているウェブサイトの管理者であるコンテンツプロバイダに対して(注2)、当該投稿等の削除を請求することができます。

なお、そもそもどのような投稿等が違法・有害、すなわち、他人の権利を侵害するものと判断されるかについては、多数の裁判例があり、本稿において詳細に立ち入ることはできませんが、通信事業者団体であるプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が作成・公表しているガイドラインが参考になります。

<プロバイダ責任制限法 関連情報Webサイト>

https://www.isplaw.jp/

注1:法人である企業に人格権が認められるか否かについては議論がありますが、実務上は、法人であっても人格権を根拠とした削除請求権が承認されているといって良い状況にあります。

注2:当該投稿等の発信者に対して削除請求を行うことも可能ですが、匿名での投稿等がされている場合、発信者の特定に時間と手間を要することや当該投稿がなされているウェブサイトのシステム上発信者自身に削除権限が付与されていない可能性があることなどから、実務上は、コンテンツプロバイダに対して削除請求を行うことが一般的です。

⑵違法・有害な投稿等の発信者情報の開示請求及び当該発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求

インターネット上の違法・有害な投稿等により、企業の評価が低下し、これにより、売上減少等の損害を被った企業は、当該投稿等の発信者に対し、その損害の賠償を請求したいと考えることもあるものと思われます。このような場合に、当該企業は、当該投稿等の発信者に対し、不法行為(名誉毀損)に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことができます。

もっとも、当該投稿等が匿名で行われた場合、損害賠償請求の相手方である発信者を直ちに特定することはできません。そこで、プロバイダ責任制限法は、インターネット上の情報の流通(注3)によって自己の権利を侵害されたとする者が、投稿先のウェブサイトの管理者であるコンテンツプロバイダや、発信者とウェブサイトとの間の通信を媒介する経由プロバイダに対して、当該情報の発信者の氏名、住所、IPアドレス等の情報の開示を請求することができるという発信者情報開示請求権を定めています(プロバイダ責任制限法5条)。この発信者情報開示請求を行うことにより、当該企業は、当該投稿等の発信者の氏名や住所等を特定し、損害賠償請求を行うことが可能となります。

なお、発信者情報開示請求についても、削除請求と同様、いかなる場合に、他人の権利を侵害するという意味で違法・有害とされるかについては、前記ガイドラインをご参照ください。

注3:プロバイダ責任制限法上、発信者情報開示請求の対象となるのは、「特定電気通信による情報の流通」によって権利の侵害が生じる場合であることが定められており(同法5条1項柱書)、「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信…の送信」をいうと定められています(同法2条1号)。したがって、特定の者によって受信されることを目的とする電子メールの送信などは、発信者情報開示請求の対象となりません。

2.具体的な手続きや手続きに要する時間

⑴違法・有害な投稿等の削除請求

違法・有害な投稿等の削除請求の手続きとしては、裁判外の手続きと裁判上の手続きがあります。

裁判外の手続きは、主として、当該投稿等が掲載されているウェブサイトの管理者であるコンテンツプロバイダが自主的に定める手続きを利用するものです。当該手続きは、各ウェブサイトにより取扱いが異なるため、事前にどのような情報・書類が必要かを確認した上で手続きを採る必要があります。また、この手続きに要する時間も各ウェブサイトにより異なりますが、早ければ数日程度、遅い場合には、数か月程度の期間を要することもあります。

裁判上の手続きを採る場合、主として、仮処分の申立てを行います(注4)。仮処分の申立てを行う場合、裁判所が双方の当事者から事情を聴取する手続きが必要となるため、裁判所による仮処分命令の決定がなされるまでに、コンテンツプロバイダが国内に所在する場合で、早ければ数週間程度、コンテンツプロバイダが海外に所在する場合で、遅ければ半年以上の期間を要することがあります。

注4:裁判上の手続きとしては、通常訴訟を提起する方法もありますが、仮処分の申立てによる方が、手続きが迅速であり、結果も通常訴訟を提起する場合と変わらないため、実務上は仮処分の申立てによるのが一般的です。

⑵違法・有害な投稿等の発信者情報の開示請求及び当該発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求

①違法・有害な投稿等の発信者情報の開示請求

違法・有害な投稿等の発信者情報の開示請求は、主として、裁判上の手続きによります(注5)。

【令和3年改正前のプロバイダ責任制限法】

令和3年改正前のプロバイダ責任制限法においては、権利を侵害された者が当該投稿等の発信者の氏名や住所等の情報を取得するためには、まず、コンテンツプロバイダに対し発信者のIPアドレスの開示を求める旨の発信者情報開示請求の仮処分を申し立てることにより、発信者のIPアドレスを取得して経由プロバイダを特定する必要がありました。その上で、さらに、当該経由プロバイダに対して、発信者の氏名、住所等の開示を求める発信者情報開示請求訴訟を提起して、当該情報の開示を受ける必要がありました。すなわち、発信者を特定するまでに、2度、発信者情報開示請求に対する裁判所の終局的判断を経なければなりませんでした。

【令和3年改正後のプロバイダ責任制限法】

令和3年改正後のプロバイダ責任制限法においては、新たに「発信者情報開示命令事件」(同法8条)という裁判上の手続きが設けられ、当該手続きを利用することにより、権利を侵害された者は、より簡易かつ一回的な手続きによって、発信者の氏名や住所等の情報を取得することができるようになりました。

すなわち、権利を侵害された者は、コンテンツプロバイダを相手方として、裁判所に対し、当該コンテンツプロバイダが保有する発信者のIPアドレスの開示命令の申立てを行います(以下、開示命令の申立てを行った者を「申立人」といいます。)。前記申立てと同時に、申立人は、当該開示命令事件の手続きの中で、裁判所に対し、当該コンテンツプロバイダが申立人に対して当該IPアドレスから明らかとなる経由プロバイダの名称及び住所といった情報を提供すべきこと、及び当該コンテンツプロバイダが当該経由プロバイダに対して当該IPアドレスの情報を提供すべきことを内容とする命令(以下「提供命令」といいます。)の発令を申し立てることができます。裁判所は、「発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるとき」(同法15条1項柱書)という比較的緩やかな要件の下、当該IPアドレスの開示命令に先立って、提供命令を発令します。これにより、申立人は、当該経由プロバイダの名称や住所を知ることができるため、当該コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令が発令される前に、当該経由プロバイダをも相手方として、発信者の氏名や住所等の情報の開示命令を申し立てることが可能となります。

以上の経緯を経て、当該コンテンツプロバイダと当該経由プロバイダを相手方とする発信者情報開示命令事件がともに係属するに至った場合、両事件は、同一の裁判所によって併合審理されることとなり(同法10条)、申立人は、単一の手続きにおいて、裁判所の終局的な判断を得ることができます。

また、提供命令により、当該コンテンツプロバイダが当該経由プロバイダに対して当該IPアドレスの情報を提供することとなるため、当該経由プロバイダを相手方とする発信者情報開示命令事件の手続きの中で、裁判所に対し、当該IPアドレスに係る発信者の氏名や住所等の情報を消去することを禁止する旨の命令(当該命令を「消去禁止命令」といいます。)の発令を申し立てることができます(同法16条1項)。

なお、令和3年改正後のプロバイダ責任制限法の下でも、引き続き、同年改正前の同法によって定められていた手続きを採ることも可能です。

以上の手続きは、令和3年改正プロバイダ責任制限法の施行により、令和4年10月1日から新たに運用が開始された手続きであり、実務上、申立てから命令の発令までどの程度の期間を要するかについての目安が確立されていない状況です。しかしながら、発信者の氏名や住所等の情報の開示を受けるために、仮処分命令の決定と発信者情報開示請求に係る判決を得なければならなかった令和3年改正前のプロバイダ責任制限法下での手続きと比較すると、発令までの期間は相当程度短縮されるものと予想されます。

注5:発信者情報開示請求は、裁判外で行うことも可能ですが、コンテンツプロバイダや経由プロバイダが裁判外で発信者情報の開示を行う場合には、原則として当該発信者の意見を聴くこととなり(プロバイダ責任制限法6条1項参照)、当該発信者の同意が得られないときにコンテンツプロバイダや経由プロバイダが裁判外で発信者情報の開示を行う可能性は低いと考えられます。そのため、実務上、発信者情報開示請求は、裁判上の手続きにより行われることが一般的です。

②発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求

違法・有害な投稿等により権利を侵害された企業は、以上の手続きを経て取得した発信者の氏名や住所等の情報を利用して、当該発信者を相手方とする損害賠償請求訴訟を提起することが可能です。当該訴訟において、当該企業は、当該発信者による投稿等が当該企業の名誉を毀損し、それによって、当該企業に損害が生じていることを主張・立証していくこととなります。もっとも、当該発信者による投稿等が当該企業の名誉を毀損することは、当該訴訟に先立つ発信者情報開示命令事件の審理において、裁判所が一定の確度をもって認めていることから、当該訴訟においては、当該企業にいかなる損害が発生しているか、その損害と当該投稿等との間に因果関係があるかといった点が、主たる争点となることが多いものと考えられます。裁判所が、当該発信者による投稿等が当該企業の名誉を毀損し、それによって、当該企業に損害が生じていることを認め、当該企業の請求を認容する判決を下した場合、当該企業は、当該発信者から損害賠償を受けることができます。この手続きは訴訟手続ですので、途中で和解が成立しない場合、事案の複雑さなどにもよりますが、判決までに半年から数年の期間を要するものと考えられます。

3.終わりに

本稿のはじめに言及しましたとおり、現代では、あらゆる企業において、インターネット上の投稿等への対応が求められる可能性がありますが、その対応のためには、適切な法的理解が必要となります。本稿の中でご紹介したプロバイダ責任制限法につきましては、同法の所管官庁である総務省のホームページ上にも情報がございますので、あわせてご参照ください。

<総務省ホームページ「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)」>

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html

当事務所では、インターネット上の投稿等への対応のみならず、企業のレピュテーションリスクへの対応に関して経験豊富な弁護士が複数在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。

≪弁護士 髙石竜一≫