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国土交通省による「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」の公表

弁護士藤原 孝仁

国土交通省から「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」が公表され(2021年5月20日)、現在、意見公募手続(パブリック・コメント)に附されています(意見募集 2021年6月18日まで)。

1.背景

不動産取引に際し、取引対象不動産において過去に入居者らが死亡していたなどの事情が存在するいわゆる「事故物件」について、宅地建物取引業法及び判例上、いわゆる心理的瑕疵として告知の必要があるとされているものの、かかる不動産取引における心理的瑕疵については、買主や借主の個々人の内心にかかわる事項であり、各事象をどの程度嫌悪し、それが取引の判断にどの程度影響を与えるかについては、当事者ごとに異なるものであることから、個々の不動産取引に際し、心理的瑕疵に該当する事案の存在が疑われる場合において、それが買主や借主に対して告知すべき事案に該当するか否かの判断が困難なケースがあり、一定の指針の必要性が指摘されてきたことから、今般、居住用不動産において、過去に人の死が生じた場合についてのガイドラインが示されることとなったものです。

2.ガイドライン案の注目すべきポイント

判例の状況なども踏まえ、当該ガイドライン案においては病気や老衰の自然死、入浴中の転倒や食事中の誤嚥等の不慮の事故死については、原則として告知義務の対象とならないものとされています。但し、自然死や不慮の事故死の場合においても、死後、長期間発見されず害虫などが発生して特殊清掃が行われた場合には告知を要するものとされています。

自然死や不慮の事故死と異なり、他殺、自殺、火災・ガス漏れによる事故死、原因不明の死については告知を要するものとされています。但し、過去の判例の状況を踏まえて、不動産取引が賃貸借契約の場合については、概ね3年間の告知義務と期間の限定が明示されており、他方、売買契約の場合については、期間の限定を特に定めないものとされています。

不動産取引におけるいわゆる心理的瑕疵全般についてのガイドラインではないものの、特に取引上の課題となるケースの多い、「居住用不動産」において生じた「人の死」に関する事案につき、宅地建物取引業者がとるべき対応について具体的なガイドラインが示されることは、宅地建物取引業者がとるべき対応の範囲を明確化することで必要な調査・告知義務をより一層誠実に果たさせると共に、宅地建物取引業者が無限定で過大な調査・告知を求められることを防ぐという両面において不動産取引実務における重要な指針となると考えられます。

なお、不動産取引におけるいわゆる心理的瑕疵については、今回のガイドライン案が対象としている以外の事案も多数存在し(周辺環境や過去の使用用途等)、今後、さらなるガイドラインの整理なども期待されるところではあります。

また、当事務所においては不動産取引全般について豊富な知識経験を有する弁護士が複数在籍しておりますので、今回のガイドライン案の対象事案に限らず、いわゆる心理的瑕疵全般についての告知の要否その他実務上判断に迷う事案につきましても、過去の判例の分析等を基に的確なご助言が可能です。

《弁護士 藤原孝仁》