【裁判例】JASRACの独占禁止法に基づく審決取消訴訟に関する最高裁判所判決
最高裁判所は、東京高等裁判所が平成25年11月1日に言い渡した審決取消等請求事件の判決に対し、公正取引委員会及びJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)が上告受理申立てを行っていた事件(以下、「本件」といいます。)で、平成27年4月28日、上告を棄却する判決を言い渡しました。
(最高裁判所判決全文http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/064/085064_hanrei.pdf )
本件は、音楽著作物の著作権者から委託を受けて音楽著作物の利用許諾等の管理事業を行っているJASRACが放送事業者と締結している利用許諾契約に基づき使用料を徴収する行為が他の音楽著作権の管理事業者の事業活動を排除するとして独占禁止法第2条第5項のいわゆる「排除型私的独占」に該当することを理由として排除措置命令が出されたのに対し、同命令を取り消す旨の審決がされたため、他の著作権の管理事業者が同審決の取消し等を求めていた事案です。
前提となる事実関係として、原審裁判所では、放送事業者と管理事業者との間の使用料の徴収方法としては1曲1回単位の個別徴収の方法と年間の定額又は定率による包括徴収の方法があるところ、JASRACの利用許諾契約では、個別徴収の場合は包括徴収に比べて著しく多額になるため、実際はほとんど全ての放送事業者は包括許諾及び包括徴収による利用許諾契約を締結している事実を認定していました。
その上で、最高裁判所は、JASRACがほとんど全ての放送事業者との間で包括徴収による利用許諾契約を締結して使用料を徴収する行為(以下、「本件行為」といいます。)が「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは、「自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否か」によるべきとの先例の基準を示した上、以下のような判断をしました。
すなわち、①JASRACは著作権等管理事業法の施行時に既に管理事業の市場において事実上の独占状態にあったところ、管理事業は多額の費用を要することなどから他の管理事業者による市場参入は相当困難であり、かつ放送利用においては膨大な数の楽曲が日常的に利用されるため、JASRACと契約を締結せず他の管理事業者との間でのみ利用許諾契約を締結することはおよそ想定し難い状況にあること、②楽曲は放送利用において基本的に代替的な性格を有するものであること、③JASRACの包括徴収方式によると、放送事業者が他の管理事業者の管理する楽曲を有料で利用する場合には使用料の追加負担が生じ、それだけ放送事業者が楽曲全体につき支払うべき放送使用料の総額が増加することになるため、放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用は抑制されること、などから、本件行為は他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有すると判断しました。
最高裁判所は、そのような仕組みは、特段の事情のない限り、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものと解するのが相当と述べたため、今後は、公正取引委員会において改めて審決を行う手続が再開され、特段の事情の有無等について検討されることになります。
このような判断に対し、JASRACは今後も独占禁止法違反ではないとの主張を続ける旨を同協会のHPに掲載しておりますが、上記最高裁判決を受けて、今後の放送事業者との間での使用料の徴収方法の在り方に影響することも考えられます。放送事業の市場における影響が大きい判決だけに、今後の審決のみならず市場における実務の動向も注目されます。
以上