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【ニュース】民法(債権関係)の改正について(2)

1 既に各所で報道等されているとおり、平成26 年8 月26 日、法制審議会民法(債権関係)部会が「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」を決定しております(要綱仮案全文は法務省のHP(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900227.html)をご参照下さい。約款については目次に明記されていますが、その内容は留保され継続審議事項となっています。)。今後さらなる検討を経た上で来年(平成27年)2月に「要綱案」が決定され、通常国会への提出が予定されています。

2 昨年(平成25年)2月に公表された「中間試案」は、大胆な提案もあり、議論の進め方についても異論も見られましたが(本ホームページ20130917トピックスご参照)、要綱仮案は「全員のコンセンサスが得られる論点のみ残す」という方式(金融・商事判例№1451・1頁)で仕分け作業が行われた結果、比較的穏やかな改正にとどまったようであり(例えば、中間試案では、金銭債権の譲渡の第三者対抗要件につき登記に一元化する案が提示されましたが、要綱仮案はこれを採用しませんでした。)、判例通説の明文化、文言の分かりやすさの工夫が随所に見られるところです。ただ、現行法を実質的に変更する箇所も多く、今後債権者、債務者のいずれの立場においても要綱仮案の段階から理解しておくことが望ましいでしょう。

変更箇所として注目されるのは、個人保証、債権の消滅時効、法定利率です。

3 個人保証

 個人保証については以下のような制限が定められました。第一に、極度額の定めのない個人の根保証は一般的に無効とされました。第二に、事業のための貸金等債務の個人保証は、公正証書による保証の意思確認を効力要件として義務づけ、保証契約締結の1か月前に公正証書にて保証債務を履行する意思を表示させるものとしました)。ただ例外的に、保証人が経営者(役員、主要株主、個人たる主債務者の配偶者または共同経営者)である場合には上記の義務は不要とされています。

4 債権の消滅時効

(1)消滅時効の期間について

 現行法は、債権の消滅時効を原則として「権利を行使することができる時」から10年(商事債権は5年(商法522条))としていますが(なお、一部の債権については職業別に1年~3年の短期消滅時効もあります。)、要綱仮案は、原則的な時効期間を「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使することができる時から10年」のいずれか早い方として統一し、商事債権の5年を撤廃し、職業別の短期消滅時効も撤廃しました。即ち、「権利を行使することができる時から10年」という現行法の規律は維持しつつ、商事債権に限らず民事債権でも「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」として時効期間を短縮したものです。権利を行使することができることを知らないというケースは少ないでしょうから、消滅時効の期間は短縮されたという点で留意すべき変更箇所ということができます。

(2)不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

 現行法は、「被害者または法定代理人が損害および加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」のいずれか早い方としていますが(民法724条)、要綱仮案はこの規律を維持しつつ、「人の生命または身体の侵害による」損害賠償請求権については、上記の3年を5年に延長し、被害者保護を強化しています。

(3)「時効の完成猶予・更新」という概念の採用

 現行法は、時効の「中断」「停止」という概念を用いており、「中断」とは時効の進行を止めて振り出しに戻ること、「停止」とは時効の進行が止まることをそれぞれ意味しますが、「中断」という言葉本来の意味と異なるため、要綱仮案は「時効の完成猶予・更新」という概念を設けました。「完成猶予」は「停止」、「更新」は「中断」にそれぞれ対応するものです。なお、このほか現行法にない概念として、時効の完成猶予事由として「権利協議」という概念もあります。

5 法定利率について

(1)現行法は、民事上は年5%、商事上は年6%ですが(民法404条、商法514条)、要綱仮案は、一律に年3%と変更され(商法514条削除)、3年ごとに1%単位で見直す変動制が採用されました。

(2)また将来の逸失利益等の計算を行うために必要な「中間利息控除」も法定利率によって行うことが明記されました。中間利息控除は、交通事故の損害賠償請求等で損害額の減額要素なり、判例は、交通事故の損害賠償事件では、中間利息控除を法定利率(5%)によって行っていますが、上記のとおり要綱仮案が法定利率を一律に3%としたため、被害者保護に資する内容となっています。

6 この他にも変更箇所は多岐にわたりますのでまた別稿に譲りますが、今要綱仮案の議論状況を十分に把握し、来年発表される予定である要綱案の内容が明らかになり次第、直ちに情報をご提供できるように議論の推移をフォローして参りたいと考えております。

以上