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【ニュース】令和元年改正会社法・取締役等に関する規律の見直し

弁護士荒内 智美

会社法には、平成26年の改正法の施行後2年を経過した場合に、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があるときはその結果に基づき、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずることが定められていましたが(会社法附則第25条)、これに基づき、令和元年12月4日、改正会社法が制定され、同月11日に公布がされました(令和元年法律第70号。整備法は令和元年法律71号)。施行日は、公布の日から1年6月を超えない範囲内で、政令で定められます(但し、一部の制度については3年6月を超えない範囲)。

本改正においては、株主総会に関する規律、取締役等に関する規律(取締役報酬や社外取締役)、社債管理に関する規律等が見直されることとなりましたが、本稿では、そのうちの取締役等に関する規律について、改正の概要をご紹介いたします。

1.取締役報酬

改正前会社法の取締役報酬規制は、お手盛り防止を主な目的としていましたが、本改正では取締役に対するインセンティブ付与又は監督としての機能も重視し以下のような改正が行われました。

①報酬等の決定方針

 上場会社等の一定の範囲の株式会社(※1)は、株主総会・定款で取締役の個人別の報酬内容が決定される場合を除き、報酬内容の決定方針を取締役会決議で決定することが必要となりました(改正会社第361条第7項)。

②金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め

 本改正により株式を直接報酬の対象とすることができるようになりましたが、これに関し、株式又はその取得に要する金銭を報酬とするとき、当該株式数の上限等を定めることが必要となりました(改正会社第361条第1項第3号、第5号イ。指名委員会等設置会社については改正会社409条第3項)。なお、新株予約権についても同様の規定が設けられています(同条同項第4号、第5号ロ)。

③上場会社についての特則

 上場会社(※2)は、株式を報酬とする場合一定の要件の下で、募集株式と引き換えに出資の履行を要しないことができることとなりました(改正会社第202条の2)。なお、新株予約権については改正前から発行段階で払込みは不要でしたが、本改正では、取締役報酬として発行する場合には「行使」に際しても財産の出資を要しないことを内容とすることが認められました(改正会社第236条第3項、第4項)。

④事業報告による情報開示

 法務省令の改正により、公開会社の事業報告による情報開示に関する規定を充実させることが予定されています。

2.会社補償、D&O保険(会社役員賠償責任保険)

役員に対する損害賠償請求等のリスクに対して適切な制度整備を行うことを目的として以下の改正が行われました。

①会社補償

 役員等の責任を追及する訴えが提起された場合等に、株式会社が費用等を補償することを約する契約(補償契約)に関して、その内容決定に必要な手続や補償契約に基づく補償可能な範囲等が定められ、また利益相反取引規制との関係も整備されました(改正会社第430条の2)。

②D&O保険(会社役員賠償責任保険)

 株式会社が、役員等を被保険者とするD&O保険契約に関して、その内容決定に必要な手続が定められ、また利益相反取引規制との関係も整備されました(改正会社第430条の3)。

3.社外取締役

取締役会の監督機能を向上させてきた従来の会社法改正の流れと、実際の設置状況の広がりを背景として、本改正では上場会社等について社外取締役設置が義務付けられるとともに、いわゆるセーフハーバー規定が設けられました。

①社外取締役設置の義務付け

 上場会社等(※3)は、社外取締役設置が義務となりました(改正会社第327条の2)。

②業務執行の委託

 指名委員会等設置会社以外の株式会社が社外取締役を置いている場合で、取締役との利益相反状況にあるとき、その他取締役が業務執行を行うことで株主の利益を損なう恐れがあるときは、その都度取締役会(非設置の場合には取締役)が社外取締役に対して、当該業務執行を委託することができ、この委託による業務執行は、社外取締役の非適格要件である「業務の執行」に該当しないことが定められました(改正会社第348条の2)。

「※1」…(ⅰ)監査役会設置会社(公開会社でありかつ大会社に限る)であり、金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書提出義務があるもの、又は(ⅱ)監査等委員会設置会社

「※2」…金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社

「※3」…監査役会設置会社(公開会社でありかつ大会社に限る)であり、金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書提出義務があるもの

令和元年改正会社法の改正内容は実務にも大きな影響を及ぼすものです。当事務所では、施行に向けた必要な準備についてのご相談を承っておりますのでどうぞお気軽にご相談下さい。

参考:法務省HP http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00001.html

≪弁護士 荒内 智美≫