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【ニュース】新型コロナウィルスと企業の労務管理対応

 連日、新型コロナウィルスをめぐる報道が相次いでいます。

 感染の拡大防止のため、使用者において、手洗い、うがい、マスクの着用といった衛生上のエチケットの周知及び職場内での消毒液の設置等に取り組んでいただく必要があることは当然ですが、これに留まらず、感染の疑いが生じた労働者が躊躇せずに速やかに使用者に報告できる体制を整えることで感染の拡大を予防する観点からも、実際に職場内で感染者あるいは感染の疑いのある労働者が出た場合を想定した対応をあらかじめ検討・構築しておくことが重要となります。

 既に厚労省からも企業向けに新型コロナウィルスに関するQ&A(以下「厚労省QA」といいます。)が公表されていますが(本書末尾参照。なお、厚労省QAは日々アップデートされています。)、新型コロナウィルスの存在が認知されてから日が浅いこともあり、十分な対応策が示唆されているとは言い難い状況です。そのため、当面は、2009年の新型インフルエンザ流行の際に厚労省が策定したガイドライン等(本書末尾参照)も併せて参考にしながら企業として行うべき対応を検討・構築しておくことが望まされます。

1 感染の疑いが生じた場合の労働者からの報告体制の構築

 厚労省QAによれば、風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続く場合(糖尿病、心不全、呼吸器疾患といった基礎疾患等がある場合は2日以上)や、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html)に問合せを行うことが推奨されていますので(厚労省QA1)、まずは、上記症状に該当する労働者は当該問合せを行うよう周知することが望ましいといえます。

 なお、後記2の休業手当の支払いとも関連するところではありますが、上記周知に当たっては、感染の疑いが生じた労働者が報告を躊躇することのないように、使用者として、当該報告によって労働者が不利益を被ることのないよう配慮する旨を併せて周知することが肝要です。

2 休業手当の支払義務について

 労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と規定しているため、休業手当の支払義務の有無は、当該休業が、「使用者の責に帰すべき事由による休業」によるものといえるか否かにより判断されます。なお、労働基準法第26条は、労働者の最低生活を保障するための制度であるため、「責に帰すべき事由」は、民法の債務不履行法理における帰責事由(故意、過失または信義則上これと同視すべき事由)よりも広く解され、民法上は使用者の帰責事由とならない経営上の障害も含むと解されています。

 厚労省QAによれば、新型コロナウィルスに現に感染している労働者を休業させる場合、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当せず、休業手当の支払義務はないとされています(厚労省QA4)。なお、被用者保険に加入している労働者であれば、通常は保険者から傷病手当金が支給されますので、労働者に対して傷病手当金制度の説明も怠らないようにして下さい。

 これに対して、新型コロナウィルスに感染している疑いがあるに留まる労働者や、新型コロナウィルスに感染した労働者と接触のあった労働者(濃厚接触者)については、「帰国者・接触者相談センター」や保健所への相談結果を踏まえてもなお、客観的に職務の継続が可能と判断される場合、そのような労働者を休業させることは使用者の自主的判断となりますので、原則として、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払義務が生じます(厚労省QA5)。

 逆に、保健所等からの指導の結果、休業が望ましいとの判断が示された場合には、これに従って労働者を休業させることは「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しないと考えられていますので(2009年の新型インフルエンザ流行時に厚労省が策定したものではありますが、「新型インフルエンザ(A_H1N1)に関する事業者・職場のQ&A(平成21年10月30日)」Q8(3)参照)、企業としては、「帰国者・接触者相談センター」や保健所とも十分に連携を取って休業の要否を判断することが必要かつ有用です。

 なお、2009年に一般財団法人労務行政研究所が企業276社を対象に行った新型インフルエンザ対策アンケート(労政時報第3758号)によれば、同居親族にインフルエンザの感染が確認されたことを理由に労働者を自宅待機とする場合の賃金の取扱いについては、①賃金・休業手当等は一切支払わない(16.7%)、②休業手当のみ支払う(10.5%)、③賃金を通常どおり支払う(43.5%)、未定等(29.4%)となっています。

 最後に、休業手当を支払わずに休業させることができる場合、休業手当を支払って休業させることができる場合のいずれであっても、労働者の意向や従事している業務の内容も踏まえ、未消化の年次有給休暇を消化させ、あるいは在宅勤務を認めるといった対応を講じることが可能であるならば、そのような対応を併せて検討することも必要です。

《弁護士 石井林太郎》

【参考】

・新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html 

・新型インフルエンザ(A_H1N1)に関する事業者・職場のQ&A(平成21年10月30日)

 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/21.html

・事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/090217keikaku-08.pdf

・従業員向け周知文(雛形) 新型コロナウィルスの感染・拡大の防止に向けて