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【ニュース】新型コロナウィルスと企業の労務管理対応②(時差出勤、マイカー通勤)

 2月25日、政府により新型コロナウィルス感染症対策の基本方針(以下「基本方針」といいます。)が決定されました。

 基本方針では、「患者・感染者との接触機会を減らす観点から、企業に対して発熱等の風邪症状が見られる職員等への休暇取得の勧奨、テレワークや時差出勤の推進等を強力に呼びかける。」と定められており、テレワーク及び時差出勤等が推奨されています。

 テレワークについては、労務管理及び情報管理並びにこれらの管理を適切に行うための通信機器・社内ルールの整備が必要であり、早急な対応は必ずしも容易ではありません。これに対して、時差出勤については、テレワークほどの負担を要せずに導入が可能な制度ですので、以下、時差出勤制度の導入に当たっての留意点について解説します。

 また、基本方針で特に推奨されているわけではありませんが、新型コロナウィルスの感染経路となり得る通勤電車の利用を回避するために、一時的にマイカー通勤を認めることを検討している企業もありますので、マイカー通勤を認める際の留意点についても併せて解説します。

1.時差出勤制度

 時差出勤制度とは、1日の労働時間を変えずに、始業時刻と終業時刻を変更する制度をいいます。労基法では、始業・終業時刻の定めが就業規則の必要的記載事項とされており(労基89①)、これを変更する場合には別途就業規則上の根拠が必要と解されていますが、通常は、始業・終業時刻の規定と併せて、「業務の都合その他やむを得ない事情により、始業・終業時刻を繰り上げ、または繰り下げることがある。」といった始業・終業時刻の変更規定が設けられているはずです。そのため、新型コロナウィルス対策のために時限的に時差出勤制度を導入するのであれば、必ずしも、既存の始業・終業時刻の変更規定とは別に就業規則を改定する必要まではないと考えられます。

 時差出勤制度を導入する場合、労働者の意見も踏まえて以下の事項を決定することが必要です。

① 時差出勤の対象労働者の把握

 所定始業時刻に一定の対応を行うことが常態化している労働者(来客・電話応対をする労働者、他の労働者の勤怠管理を行う労働者等)については時差出勤に馴染みませんので、まず、労働者の業務内容を踏まえて、時差出勤に馴染む労働者、馴染まない労働者を把握する必要があります。

② 始業・終業時刻のパターン決定

 新型コロナウィルス対策のために時差出勤制度を導入する場合、通勤ラッシュの時間帯を加味した上で始業・終業時刻のパターンを決定する必要があります。通勤ラッシュ時間帯の通勤回避ということであれば、1時間~2時間の幅を持たせれば足りる場合が多いと考えられます。

③ 始業・終業時刻の申請・承認プロセスの確定

 時差出勤制度を導入するとしても、あらかじめ始業・終業時刻が確定していないと業務遂行上も労務管理上も不都合が生じますので、シフト制のように、1週間前あるいは2週間前までに所属場長に具体的な始業・終業時刻を申請して承認を得るといった申請・承認プロセスを確定する必要があります。なお、時差出勤制度は変形労働時間制度とは異なりますので、勤務日の1か月前までに始業・終業時刻を確定させる必要はありません。

2.マイカー通勤

 通勤ラッシュの時間帯の電車通勤を回避するために、マイカー通勤を検討している企業が複数見受けられますが、マイカー通勤の際に事故が生じた場合、労災の一類型である通勤災害の成否(労働者災害補償保険法7条1項2号)や使用者責任の成否(民法第715条)が問題となります(なお、人身事故の場合は自動車損害賠償保障法3条に定める運行供用者責任の問題も生じますが、本トピックスでは説明を省略します。)。

 まず、通勤災害については、マイカー通勤について使用者が許可をしていたか否かに関わらず、客観的に合理的な通勤経路を用いて通勤していた際に生じた事故である場合には、通勤災害として補償対象となるのが原則です。

 これに対して、マイカー通勤により労働者が第三者に損害を与えた場合に、使用者が当該第三者に対して使用者責任を負うか否かについては、マイカー通勤に対する使用者の関与の度合いによって裁判所の判断は分かれています。

 裁判例の傾向としては、まず、(1)通勤に用いられたマイカーを会社の業務にも使用させていた場合にはほぼ例外なく使用者責任が肯定されます(最判S52.12.22判時878.60)。次に、(2)通勤に用いられたマイカーを会社の業務には使用させていない場合は、原則として使用者責任は成立せず、ただ、成立マイカー通勤に対する会社の関与の度合い如何によっては例外的に使用者責任が成立すると考えられています(使用者責任肯定例として最判H1.6.6労経速1385.9、否定例として大阪地裁S58.1.27交民16.1.66、広島高裁H14.10.30判タ1131.179等)。

 使用者責任に基づく責任追及のリスクを可能な限り低減するためには、①マイカー通勤は許可制にすること、②ガソリン代や駐車場代の支給、駐車場の貸与といった便宜供与は行わないこと(全く支給・提供しないということが難しい場合は、最低限、電車通勤時に要する費用の限度で通勤手当として支給すること)、③マイカー通勤を行う労働者が加入している自動車の任意保険の内容を確認し、それが事故の起きた際の被害者の損害を填補するに足りる内容であるかを確認することといった対応を講ずることが望ましいと言えます。

 当事務所では、時差出勤制度やマイカー通勤制度の構築に関するご相談や、今回の新型コロナウィルスの影響により改めてその重要性が認識されるところなったテレワーク制度の導入支援に関するご相談はもちろん(テレワークに関してはセミナーも開催しています(https://www.spring-partners.com/topic/1654.html)。)、働き方改革を中心とする労働法制の変革に伴う諸規定の改定対応に関するご相談も幅広く対応可能ですので、お気軽にご相談ください。

《弁護士 石井林太郎》

 新型コロナウィルス感染症対策の基本方針

https://www.cas.go.jp/jp/influenza/kihonhousin.pdf