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【事例紹介】コンビニオーナーの労働組合法上の労働者性を否定した事例

本事例は裁判例ではなく中央労働委員会の命令事例ですが、広く社会の注目を集めた事例ですのでここで紹介します。

平成31年3月15日、中央労働委員会は、コンビニエンスストアのフランチャイズ・チェーンを運営する会社(本部)とフランチャイズ契約を締結してコンビニを経営する加盟者(コンビニオーナー)について、労働組合法上の労働者には該当しないと判断し、コンビニオーナーを主な構成員とする組合からの団体交渉の申入れを拒否した会社の行為について、不当労働行為に当たらないと判断しました。

中央労働委員会の上記判断は、同じ日に、セブン-イレブン・ジャパンに関する事件とファミリーマートに関する事件の2事件についてなされたものであり、判断内容は両事件とも概ね同様ですが、両事件の初審(セブン-イレブン・ジャパンにつき岡山県労働委員会、ファミリーマートにつき東京都労働委員会)では、いずれもコンビニオーナーの労働組合法上の労働者性が認められ、会社の団体交渉拒否は不当労働行為であると判断されていましたので、中央労働委員会は、初審の判断を覆す「逆転判断」を行ったことになります。

中央労働委員会が述べる上記判断の主な理由は次のとおりです。

① 加盟者は、小売事業者として、自ら資金を調達するとともに事業の費用を負担しており、また、損失や利益の帰属主体となり、自らの判断で従業員の雇用や人事管理等を行うことで他人労働力等を活用し、自ら選択した場所でコンビニエンスストアの経営を行っているのであって、一定の制約はあるもののなお経営者として相当の裁量を有する独立した小売事業者としての性格を失っていないこと、会社から時間的・場所的拘束を受けて労務を提供しているとはいえないこと等から、会社の事業活動に不可欠な労働力として会社の事業組織に組み入れられていると評価することはできない。

② フランチャイズ契約の内容は会社により一方的かつ定型的に決定されているが、これは会社・加盟者間の事業者としての交渉力の格差を示すものであるとしても、加盟者の労働組合法上の労働者性を基礎付けるものとはいえない。

③ 加盟者が会社から受領する金員については、フランチャイズ契約の主旨や、加盟店と会社の関係の実態を踏まえると、加盟者の労務供給に対する報酬としての性格を有するものと評価することはできない。

④ 加盟者は、自身の小売事業の経営全体に関し、法人化、契約形態、店舗数等に関する経営判断、また日々の商品の仕入れの工夫や経費の支出等に関する判断や業務の差配によって、恒常的に独立した経営判断により利得する機会を有しているとともに、自らの行う小売事業の費用を負担し、その損失や利益の帰属主体となり、補助的な範囲のものにとどまらない他人労働力等を活用して、自らリスクを引き受けて事業を行っているのであって、顕著な事業者性を備えている。

上記のような判断要素を踏まえた判断は、基本的には、労働組合法上の労働者性を判断する際の一般的な判断枠組みに従ったものですが、中央労働委員会は、上記判断要素に関して詳細な検討を経て結論を導いており、個人的には相応の説得力のある判断であるように思います。

もっとも、労働組合法上の「労働者」概念は、労働基準法上の「労働者」概念よりも広いものであると解されていることや、個々の判断要素に関しては、個別事情の評価次第で別途判断の余地も十分あり得るように思われます。

当時のニュース記事によれば、コンビニオーナー側は中央労働委員会の上記判断を不服として裁判所に対して同命令の取消訴訟を提起する意向とのことですので、当該取消訴訟において裁判所がどのような判断を下すのかについては大いに注目されるところです。

                                 ≪弁護士 里見 剛≫