【ニュース】消費者裁判手続特例法の施行
平成28年10月1日、「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年12月11日公布。略称は「消費者裁判手続特例法」)が施行されました。
消費者裁判手続特例法は、消費者と事業者との間に存在する情報の質・量や交渉力の格差により消費者が自ら被害回復を図ることができない事案があることを踏まえ、財産的被害を集団的に回復するための裁判手続を創設することによって、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした法律であり、以下のような特徴があります。
①二段階の訴訟制度
消費者裁判手続特例法では、訴訟手続が二段階に分けられています。
すなわち、一段目の手続においては、消費者の利益を適切に代表することができる者として内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」が、事業者に対し、相当多数の消費者に共通する事実上および法律上の原因に基づき、(個々の消費者によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて)金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴え(「共通義務確認の訴え」)を提起することができることとされました。特定適格消費者団体とは、既存の適格消費者団体の中から所定の要件に全て適合しているとして内閣総理大臣の認定を受けた団体をいいます。また、相当多数の消費者とは、裁判所が諸事情を考慮して判断するものですが、一般的な事案においては、数十人程度であれば多数性が認められると考えられています。
事業者に共通義務が存することが確認された場合には、二段階目の手続である「簡易確定手続」に移行します。すなわち、個々の消費者から授権を受けた特定適格消費者団体が債権の届出をし、債権の存否および内容について事業者の認否または裁判所の決定(簡易確定決定)により確定させ、簡易確定決定に対して異議がある場合には、さらに異義後の訴訟において債権の存否・内容を確定させるという流れです。個々の消費者から授権を受ける前提として、債権届出の対象となる消費者を募るために、簡易確定手続申立団体(簡易確定手続開始の申立をした特定適格消費者団体をこのように呼びます)は、知れている対象消費者に対して共通義務確認の訴えの結果等を通知のうえ、公告を行うこととされています。また、対象となる消費者の名簿は相手方事業者が所持していることが多いため、相手方事業者には、対象となる消費者の氏名・住所等が記載された文書・電磁的記録の情報開示義務が課せられています。
②原告適格の制限
①でご紹介したとおり、消費者裁判手続特例法においては、原告となり得る資格が特定適格消費者団体に限定されています。米国における集団訴訟(クラスアクション制度)とは異なり、一般消費者が他の消費者を代表して消費者裁判手続特例法に基づく集団訴訟を起こすことはできないのです。
③対象事案の限定
また、消費者裁判手続特例法の対象となる事案は以下のとおり限定されています。
すなわち、事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって、消費者契約に関する一定の請求(ⅰ債務の履行の請求、ⅱ不当利得に係る請求、ⅲ契約上の債務の不履行による損害賠償の請求、ⅳ瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求、ⅴ不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求)に係るもののみが対象となります。さらに、上記ⅲ~ⅴの損害賠償の請求における損害については、いわゆる拡大損害や逸失利益、人の生命または身体を害されたことによる損害、精神上の苦痛を受けたことによる損害は対象外とされている点も特徴です。
④確定判決の効力
共通義務確認の訴えの判決の効力は、原告である特定適格消費者団体及び被告である事業者に及ぶほか、当該訴えの当事者以外の特定適格消費者団体及び簡易確定手続において債権を届け出た消費者にも及ぶこととされています。
以上、消費者裁判手続特例法の主な特徴を概観しました。同法は施行されたばかりであり、今後、同手続がどの程度利用されるのかが注目されます。
≪弁護士 吉浦 くにか≫