コラム

担保法改正に向けた議論 ~「担保法制の見直しに関する中間試案」(令和4年12月6日)~

弁護士髙石 竜一

1 担保物権について

企業間の取引、とりわけ、経済規模の大きな取引においては、債権者が自己の債権の回収不能リスクを低減するため、債務者から担保物権の設定を受けることが、日常的に行われています。民法は、留置権、先取特権、質権、抵当権の4つの担保物権について定めており、その他に、商法その他の特別法が留置権について、企業担保法が企業担保権について定めています。これら法律上規定された担保物権は典型担保と呼ばれます。もっとも、実務においては、法律上の明文はないものの、解釈によって認められた担保権の設定が相当広く行われています。譲渡担保や所有権留保などがこれに当たり、非典型担保と呼ばれます。非典型担保については、典型担保と比べて、取引の実体に応じた柔軟な設定が可能であり、取引当事者にとって使い勝手が良いことなどといった利点があります。反面、担保物権成立の要件・効果・実行方法等が法定されていないことから、法的安定性に欠けることなどの問題点も指摘されています。

2 法制審議会担保法制部会での議論

昨今、法務省が所管する法制審議会に、担保法制部会が設置され、担保法制の見直しについての議論が進められています。同部会は、「動産や債権等を担保の目的として行う資金調達の利用の拡大など、不動産以外の財産を担保の目的とする取引の実情等に鑑み、その法律関係の明確化や安定性の確保等の観点から、担保に関する法制の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」との同審議会諮問第114号を受け設置されたものです。その議論の中心は、非典型担保の明文化に向けた検討にあり、令和4年12月6日には、「担保法制の見直しに関する中間試案」が取りまとめられています。以下では、「担保法制の見直しに関する中間試案」の概略をご紹介いたします。

3 個別動産を目的とする新たな規定に係る担保権について

従来、譲渡担保又は所有権留保として認識されてきた担保物権の要件・効果・実行方法等についての明文化が検討されています。当該議論の中では、担保権設定者が担保権の目的物を真正譲渡することの可否、すなわち、担保権が付着した動産を、担保権を存続させたまま譲渡することができるものと定めるか否かについての結論を留保していることが注目されます。

4 個別債権を目的とする譲渡担保権について

従来、債権譲渡担保として認識されてきた担保物権の要件・効果・実行方法等についての明文化が検討されています。債権譲渡担保については、現段階では、これまでの実務上の取扱いからの大きな変更は検討されていません。

5 集合動産・集合債権を目的とする担保権

従来、集合動産譲渡担保・集合債権譲渡担保として認識されてきた担保物権の要件・効果・実行方法等についての明文化が検討されています。当該議論の中では、担保価値維持義務を定めるか否かについての結論を留保していることが注目されます。

6 その他の議論

新たに法定する担保物権相互及び従来の典型担保との優劣関係について、検討されています。典型担保である動産質については、流質契約の有効性を認めるよう見直すか否かが検討されています。また、担保物権の倒産手続における取扱いについても、種々の見直しが検討されています。加えて、事業担保権、動産及び債権以外の財産権を目的とする担保権、ファイナンス・リースなどについて、明文化を行うか否かを含め、検討がなされています。

7 原典等の参照先

以下のリンク先にて、「担保法制の見直しに関する中間試案」の原文及びこれに対する解説等を付した「担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明」をご参照頂けますので、詳細はこちらをご確認ください。

【担保法制の見直しに関する中間試案】

https://www.moj.go.jp/content/001388432.pdf

【担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明】

https://www.moj.go.jp/content/001388433.pdf

8 おわりに

担保権に係る規定は非常に入り組んでおり、理解が難しい部分も多々あります。取引当事者が十分な理解のもと慎重な検討を行うことなく担保権を設定した場合、担保権者においては期待した効果を得られないことが考えられますし、担保権設定者においては想定を超える不利益を被ることも考えられます。したがって、担保権を設定する場合には、高度の専門性を有する専門家に相談されることを強く推奨いたします。当事務所には、複雑な担保権の設定を含む契約の締結に関して、豊富な知識を有する弁護士が複数在籍しておりますので、是非ご相談ください。

以上