スタートアップ投資契約ガイドライン増補版の策定と公開
令和7年9月、経済産業省より「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」増補版-スタートアップの成長に資するガバナンス設計と投資契約実務のアップデート-(r7_startup_investment_agreement_guidelines_expanded.pdf)が策定・公開されました。
従来、投資契約の実務上のガイドラインとして、「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」が存在し、令和4年3月の改訂版(r4_startup_investment_agreement_guidelines.pdf)が公開されていましたが、この増補版は、この内容のアップデートを行うものです。
本増補版によると、日本のスタートアップエコシステムが、ここ10年で大きく成長を遂げ、スタートアップの「裾野」が広がっていることを背景として、ユニコーン企業等の成長スタートアップの創出を中心に据え、さらなる「高さ」の創出と「継続」を目的として、今回のアップデートが行われたとのことです。
海外投資家やグローバル人材の活躍を視野に入れ、米国等での実務との差異が検討され、投資契約の内容のみならず、会社法法制、上場制度、ガバナンス等の比較を踏まえる形で、増補がなされています。
同増補版においては、スタートアップのフェーズによって最適なガバナンスを構築することの意義、ガバナンスの向上に向けた取締役会・関係者に期待される役割等が概観された上で、ガバナンス体制の成長に応じて投資契約のアップデートを行うことの必要性が述べられています。
同増補版では、たとえば、具体的な投資契約の内容としては以下の各条項につき、実務的な観点から、方向性や留意事項が取り上げられています。
- 事前承認条項:ガバナンスが一定向上したフェーズでは特に重要な事項に限定する。
- 株式買取請求権:設定しない/設定する場合の請求権のトリガーの明確化/買取請求の対象から経営株主個人を除く。
- 表明保証の主体:主体から経営株主個人を除く。
- 補償責任の主体:経営株主個人に連帯責任を課すことを原則的に許容しない。
- 優先残余財産分配:参加型・非参加型・キャップ付参加型の別、バリュエーション、契約条件を含めて総合的な交渉が行われることへの期待。
- 上場に伴う優先株式の転換時期:優先株式の転換時期を上場日とすることの余地。
- Exit協力義務:義務を定めない/上場に限定せずMA等の選択肢も含める。
投資契約の内容は、スタートアップの特徴・フェーズ及び当事者の関係性によって異なることは当然ではありますが、米国等での実務との差異を意識し、かつガバナンス体制との連動を示唆する今回のアップデートは、今後のスタートアップ投資実務にも影響をもたらしうるものと考えられます。
本増補版の方向性については、投資家側、スタートアップ側それぞれの立場から、様々な評価がありうるとは存じますが、投資契約等の交渉実務に携わるにあたり、かかる提言が行われていることを十分に認識することが肝要です。
≪弁護士 荒内智美≫
