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「スポットワーク」の労務管理上の留意点

弁護士江口 聡

1 「スポットワーク」の急増

近年、短時間・単発の就労を内容とする雇用契約の下での労働、いわゆる「スポットワーク」の活用が急速に広がっており、業界大手各社のアプリの累計利用者数は3200万人を超え(2025年2月時点)、労働市場においてその存在感を高めています。

スポットワークは、事業主にとっては昨今の人手不足を補う柔軟な労働力として、働き手にとってはスキマ時間を活用できる新たなワークスタイルとして注目を集める一方で、その契約関係はアプリ上のマッチングで完結することが多く、従来の雇用モデルとは異なるが故に数々の問題も浮かび上がっています。

厚生労働省は、令和7年7月、「『スポットワーク』の労務管理」というリーフレット(「スポットワーク」労務管理 | 厚生労働省)を公開し、事業主がスポットワークの活用において留意すべき点を周知しています。

以下では、スポットワークにおける労務管理上の留意すべき点をいくつかご紹介します。

2 労務管理上の留意点

①労働契約成立の時期

従来、スポットワークアプリでは、「職場に用意されたQRコードを勤務当日に働き手がスマホで読み取ることで契約が成立する」との旨の規約が定められていました。

しかし、上記のような考え方に対しては、「通勤途中に怪我をした場合に労災保険を受給することができない」、「事業主から出勤直前で仕事をキャンセルされた場合に休業補償を受けることができない」などの問題点が指摘されていました。

こうした問題点を踏まえ、厚生労働省は、スポットワークではアプリを用いて事業主が掲載した求人に働き手が応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的であるため、面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別段の合意がない限り、事業主が掲載した求人に働き手が応募した時点で(解除留保権付)労働契約が成立するとの考えを示しました。

なお、これを受けて、各社スポットワークアプリの利用規約においても「ユーザーが求人への応募を完了した時点」を労働契約成立時点とする旨明示されるようになりました。

②事業主が留意すべき点

労働契約が「応募完了時点」で成立する以上、契約成立後に事業主の都合で勤務を中止させたり早上がりさせたりする場合、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労働基準法26条)に当たるため、働き手に対する平均賃金の6割以上の休業手当の支払義務が生じます。なお、「使用者の責に帰すべき事由」とは、事業主の故意・過失のみならず事業主側に起因する経営・管理上の障害を含むとされ、民法536条2項にいう「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広いものとされています。事業主の故意・過失により休業させる場合には、賃金全額(休業手当を既に支払っている場合には当該手当を控除した額)の支払義務が生じます(民法536条2項)。

そのほか、就業開始前における労働条件の明示(労働基準法15条)、ハラスメント対策(労働施策総合推進法)等の基本的な労務管理のルールも同様に適用されます。

労働条件通知書については、スポットワーク仲介業者が代行して交付する場合であっても、事業主自身で交付状況を確認することが必要です。

その他詳細については下記厚生労働省のHPをご参照ください。

いわゆる「スポットワーク」における留意事項等をとりまとめたリーフレットを作成し、関係団体にその周知等を要請しました。 | 厚生労働省

以上

≪弁護士 江口 聡≫