有価証券報告書の株主総会前開示
令和7年3月28日、加藤勝信金融担当大臣から全上場会社に対して「株主総会前の適切な情報開示について(要請)」との要請が行われました。
有価証券報告書には役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家の意思決定のために有用な情報が含まれており、適切な議決権行使のために株主総会の前に有価証券報告書の内容が確認できることが望ましいとのことから、当該要請が出されるに至っています。
金融庁の調査によると、2023年4月期~2024年3月期決算では、有価証券報告書の提出が株主総会当日またはその数日以内に行われたケースが9割を占め(うち総会同日は45%)、総会前に提出している会社は1.5%にとどまっています。
現状の提出スケジュールからすると、これを数日前倒しにすることは大きな支障はないとの考えから、早期の開示のための第一歩として、まずは、令和7年については、総会の前日ないし数日前に提出することの検討が要請されました(なお、同要請では「株主総会の3週間以上前に行うことが最も望ましい」と述べられているところです。)。
有価証券報告書を総会前に提出する場合には、有価証券報告書の記載事項のうち、定時株主総会又はその直後の取締役会の決議事項となっている事項について、その旨及びその概要を記載すること等の対応が必要となります。また、配当関係やガバナンス関係の記載も従前からの変更が必要となります。さらに、有価証券報告書に添付する会社法上の計算書類及び事業報告については、総会にて報告しようとする又はその承認を受けようとするものを添付することとなり、仮に、総会で決議事項が修正又は否決された場合には、その旨及びその内容を記載した臨時報告書を提出するといった対応が求められることになります。(金融庁「有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点」sokaimaekaiji_ryuuiten.pdf)
総会前提出を実現するための現行法上可能な具体的な対応としては、以下の方法が考えられると説明されています(金融庁「総会前開示の実現方法」sokaimaekaiji02.pdf)。
①有価証券報告書を総会の1日以上前に開示する(期末=基準日)
②有価証券報告書を総会の3週間以上前に開示する(期末=基準日)※事業報告・計算書類等との一体開示が可能
③総会を後ろ倒しし、基準日も後ろ倒しする(期末≠基準日)※事業報告・計算書類等との一体開示が可能
④決算期を前倒しする(期末≠基準日)※事業報告・計算書類等との一体開示が可能
しかし、事務的な負担が大きいせいか、令和7年5月30日時点で、総会の2週間以上前に有価証券報告書の提出を予定している上場会社は、2社にとどまっています(定時株主総会の2週間以上前に有価証券報告書の提出を予定している上場会社一覧:金融庁)。
現状は、あくまで「要請」にすぎず、法的義務が課されている訳ではないものの、今後の動向に対しては注視が必要です。
さらに、当該要請が出されたことを受けて、事前に開示することができなかった会社では、本年の総会において、株主から、有価証券報告書を総会前に開示しないことについての質問がなされる可能性もあるため、十分な準備が必要となります。本年度において開示できなかった理由の説明や、少なくとも、より良い情報開示に努めていくという姿勢を示すことが求められるのではないかと思われます。
≪弁護士 荒内智美≫