区分所有法改正の見通しについて
近年、老朽化マンションの増加、及び区分所有者自体の高齢化の進行により、マンションに修繕が必要な状況であるにもかかわらず、集会決議の円滑な進行が困難になっていることなどが社会問題となっています(いわゆる「二つの老い」問題)。
かかる問題に対応するため、現在、国会において「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」が審議されています。
これにより、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)、マンションの建替え等の円滑化に関する法律、マンション管理の適正化の推進に関する法律等について、まとめて改正がなされる見通しです。
改正の内容は多岐にわたりますが、以下、特に重要なポイントである区分所有法における区分所有建物の管理の円滑化、及び区分所有建物の再生の円滑化に関する改正の概要についてまとめます。
1.区分所有建物の管理の円滑化を図る方策
(1)集会決議の円滑化
所在等不明区分所有者を集会の決議の母数から除外する仕組みが創設されます(改正法第38条の2)。
また、集会の議事について、集会において議決権行使を行わない事例の増加に鑑み、出席した区分所有者及びその議決権の多数で決することを可能とする制度が新設されました(改正法第39条第1項)。
(2)区分所有建物の管理に特化した財産管理制度
従来は、所有者不明な専有部分等の管理に関しては、民法上の不在者財産管理人制度(民法第25条第1項)等での対処が行われていましたが、区分所有建物に特化した財産管理制度として、所有者不明専有部分管理制度が新設されました(改正法第46条の2~同第46条の7)。
また、区分所有者と連絡は取れるものの、専有部分や共用部分にゴミが放置されるなど管理が不全である場合に対処するため、民法上の管理不全建物管理命令(民法第264条の14)を参考に、管理不全専有部分管理制度、及び管理不全共有部分管理制度が創設されました(改正法第46条の8~同第46条の14)。
(3)共有部分の変更決議及び復旧決議の多数決要件の緩和
基本的な多数決割合については現行法どおり4分の3以上を維持しますが、共有部分の設置又は保存に瑕疵があり、他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され又は侵害されるおそれ等がある場合については、多数決割合を出席した区分所有者及び議決権の3分の2以上に緩和するものとされました(改正法第17条第5項)。
また、復旧決議の多数決割合についても同様に、出席した区分所有者及び議決権の3分の2以上に緩和するものとされました(改正法第61条第5項)。
(4)区分所有者の協力義務の追加
区分所有者は、区分所有者の団体の構成員として、建物並びにその敷地及び附属施 設の管理が適正かつ円滑に行われるよう、相互に協力しなければならない旨の義務が追加されました(改正法第5条の2)。
(5)専有部分の保存・管理の円滑化
区分所有者において、その専有部分を保存し、又は改良するために必要な範囲において、自己以外の区分所有者の専有部分又は共用部分の保存を請求することができるようになりました(改正法第6条第2項。従前からかかる場合において「使用」の請求を行うことは可能でしたが、例えば給排水管の補修なども「保存」として行うことができるようになりました。)。
また、専有部分の使用等を伴う共用部分の管理に関して、共用部分の管理に伴い必要となる専有部分の保存行為又はその性質を変えない範囲内においてその利用若しくは改良を目的とする行為は、規約に特別の定めがあるときは、集会の決議で決することができること(改正法第18条第4項)等の定めが新設されました。これにより、現行法上、例えば専有部分に属する給排水管等の交換は各区分所有者が行うべきものとされているところ、集会決議を経ることによって一括して改修を行うことができるようになりました。
その他にも、管理組合法人による区分所有権等の取得に関する定めの明文化(改正法第52条の2)、区分所有者が国外にいる場合における国内管理人の制度(改正法第6条の2)の導入などが予定されています。
(6)その他
共有部分等に係る請求権(保険金等)の行使に関する定めの明文化、管理に関する事務の合理化(規約の閲覧方法のデジタル化)、区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化に関する規律の整備などが行われています。
2.区分所有建物の再生の円滑化を図る方策
(1)建替え決議を円滑化するための仕組み
多数決割合については現行法どおり区分所有者及び議決権の各5分の4以上を基本とした上で、地震や火災に対する安全性に係る建築基準法等の基準に適合していないことなど、所定の場合については、多数決割合を区分所有者及び議決権の各4分の3以上とするなど、建替え決議の多数決要件が緩和されることとなりました(改正法第62条)。
また、建替え決議がなされた場合の専有部分の賃貸借契約の終了等に関する定めも新設されます(改正法第64条の2~同第64条の4)。
(2)多数決による区分所有建物の再生、区分所有関係の解消
区分所有関係の解消及び区分所有建物の再生のための新たな制度として、建物敷地売却制度(改正法第64条の6)、建物取壊し敷地売却制度(改正法第64条の7)、取壊し制度(改正法第64条の8)、再建制度(改正法第75条)、及び敷地売却制度(改正法第76条)といった制度が設けられます。また、建物の更新(改正法第64条の5。いわゆる一棟リノベーション)を行うための制度も設けられます。
3.まとめ
本改正は、老朽化マンションの管理・再生を巡る制度上の課題に対応するものであり、今後のマンション管理実務において留意すべき点が多く含まれています。
その他改正の内容については、国交省の以下のサイトもご参照ください。
https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000224.html
区分所有者や管理組合の皆様におかれては、自身のマンションにどのような影響があるのかを理解し、必要に応じた対応を検討していくことが求められます。
当事務所では、マンション管理や区分所有に関する法律相談も受け付けております。関心のある方はお問い合わせください。
≪弁護士 山口源樹≫