障害者雇用義務制度における除外率に関する改正(令和7年4月1日施行)
障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第16号)により障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則が改正され、令和7年4月1日より障害者雇用義務制度における除外率の一律引下げが行われました。
1 除外率制度とは
従業員数が一定以上の規模の事業者は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務を負います(障害者雇用促進法43条1項)。
令和7年5月現在、法定雇用率は2.5%と定められているので(障害者雇用促進令9条、附則3条)、かかる義務の対象事業者は従業員数40人以上の事業者となります。
もっとも、対象事業者であっても、障害者の就業が一般的に困難であると認められる特定業種については、雇用労働者数を計算する際に、業種ごとに定められた一定率に相当する労働者数を控除することが認められており、これを「除外率制度」と呼びます。
上記を踏まえると雇用すべき障害者の人数は次のような計算式になります。
[常用労働者数+失業者数-除外率相当労働者数]×法定雇用率 (※)
例えば、従業員数が200人の事業者のケースでは
(除外率制度の適用がない場合)
計算式:200人×2.5%=5人
200人のうち5人について対象障害者を雇用していれば、法定雇用率を満たします。
(除外率制度の適用がある場合)
従業員200人のうち20%に相当する従業員40人分は計算上の雇用労働者数から除外され、算定基準となる労働者数は160人となり、計算式は以下のようになります。
計算式:160人×2.5%=4人
200人のうち4人について対象障害者を雇用していれば、法定雇用率を満たします。
※なお、実雇用率の算定においては、短時間労働者は原則1人を0.5人として換算されます。障害障害者の人数換算についても障害の種類・程度、週所定労働時間に応じて異なります。
このように、同じ従業員数の会社であっても、除外率制度の適用がある業種であるか否かによって、雇用すべき障害者の人数が変動しうるので、除外率制度は事業者の障害者雇用義務を軽減するものとみることができます。
2 改正の概要
除外率制度は、ノーマライゼーション(障害のある人が障害のない人と同等に生活し、共生できる社会を目指すという理念)の観点から、平成14年障害者雇用促進法改正により廃止されましたが、激変緩和の経過措置として、当分の間、除外率制度を存置させ、廃止に向けて段階的に除外率を引き下げていくこととされました。
こうした流れの一環として、除外率は、平成16年4月に一律10ポイント、平成22年7月に一律10ポイントと段階的に引き下げられてきましたが、令和7年(2025年)4月1日から、さらに一律10ポイント引き下げられることになりました(令和5年厚生労働省令第16号による障害者雇用促進法施行規則別表第4の改正)。すなわち、事業者の障害者雇用義務の軽減措置が縮小したということになります。
今回の改正による最新の除外率は以下の通りです。
(令和7年5月時点)
除外率設定業種 | 除外率 | |
改正前 | 改正後 (R7.4~) | |
・非鉄金属製造業(非鉄金属第一次製錬精製業を除く。) ・倉庫業 ・船舶製造・修理業、船用機関製造業 ・航空運輸業 ・国内電気通信業(電気通信回線設備を設置して行うものに限る。) | 5% | 0% |
・窯業原料用鉱物鉱業(耐火物・陶磁器・ガラス・セメント原料用に限る。) ・その他の鉱業 ・採石業、砂・砂利・玉石採取業 ・水運業 | 10% | 0% |
・非鉄金属第一次製錬・精製業 ・貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く。) | 15% | 5% |
・建設業 ・鉄鋼業 ・道路貨物運送業 ・郵便業(信書便事業を含む。) | 20% | 10% |
・港湾運送業 | 25% | 15% |
・鉄道業 ・医療業 ・高等教育機関 | 30% | 20% |
・林業(狩猟業を除く。) | 35% | 25% |
・金属鉱業 ・児童福祉事業 | 40% | 30% |
・特殊教育諸学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く。) | 45% | 35% |
・石炭・亜炭鉱業 | 50% | 40% |
・道路居客運送業 ・小学校 | 55% | 45% |
・幼稚園 | 60% | 50% |
・船員等による船舶運航等の事業 | 80% | 70% |
3 事業者の対応
今回の除外率引下げにより、従前においては雇用すべき人数の障害者を雇用していた事業者であっても、法定雇用率に達していない状態となっている可能性があります。
さらには、令和8年7月以降は障害者法定雇用率自体が2.5%(令和7年5月時点)から2.7%へ引き上げられるほか、これに伴い、障害者雇用率制度の対象事業者の範囲も従業員数40.0人以上(令和7年5月時点)から37.5人以上へ拡大されますので、併せて注意が必要です。
法定雇用率を満たしていない事業者は、①障害者の雇入れに関する計画作成命令(障害者雇用促進法46条1項)、勧告(同条5項、6項)、事業者名の公表(47条)などの措置を受けたり、②障害者雇用納付金制度に基づく納付義務(53条以下)を負ったりするおそれがあります。
事業者の対応として、まずはご自身の会社の雇用状況に照らして法定雇用率を満たしているかを再確認する必要があります。
また、障害者雇用義務の軽減措置は廃止に向けて縮小されていくことになりますので、障害者雇用に向けた環境整備の一環として、業務の見直しや職場環境の調整など、今後の雇用促進のための準備がより一層求められるでしょう。なお、障害者雇用を支援する各種制度や助成金の活用など、費用面の負担軽減を図ることも可能です。
その他詳細な障害者雇用に関するルールについては下記厚生労働省のWEBページをご参照ください。
以上
≪弁護士 江口 聡≫