令和5年施行改正民法について
改正民法が令和5年4月1日より施行されます。
本改正は、近年社会問題化している所有者不明土地問題の解消を目的として行われたものであり、その主たる改正点は以下のとおりです。
1.相隣関係の見直し
(1)隣地使用権
隣地使用権の内容を明確化し、その行使の際のルールを定めるとともに、隣地使用が認められる目的を拡大する等の改正が行われました(改正民法第209条)。
(2)ライフラインの設備の設置・使用権
他人の土地や設備を使用しなければ電気、ガス、水道等のライフラインを引き込むことができない場合に、当該土地・設備の所有者に対して、必要な範囲でライフライン設備設置権及びライフライン設備使用権行使することができる旨の改正等が行われました(改正民法第213条の2)。
(3)越境した竹木の枝の切取り
現行法上、隣地の竹木の枝が境界線を越えている場合には、越境された土地の所有者は竹木の所有者に対してその枝を切除させることができる旨定められておりますが、かかる原則を維持しつつ、竹木の所有者が催告後相当の期間内にその切除を行わなかった場合など、一定の場合に土地の所有者が自ら枝を切ることができる旨の改正等が行われました(改正民法第233条)。
2.共有の見直し
(1)共有物の利用促進
① 共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化
現行法上、共有物に「変更」を加える場合は、それが軽微な変更であったとしても共有者全員の同意が必要とされていたところ(現行民法第251条第1項)、「変更」のうち、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、「管理」行為として持分の価格の過半数で決定することができる旨改正されました(改正民法第251条第1項、第252条第1項)。
② 共有物を使用する共有者がいる場合のルール
現行法上、共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても、持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定できるかが明確ではなかったため、共有物を使用する共有者がある場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができる旨明確化されました(改正民法第252条第1項後段)。
また、共有物を使用する共有者は、原則として、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う旨が定められました(改正民法第249条第2項)。
③ 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理
共有物の管理に関心を持たない共有者の存在が共有物の管理を困難にする原因となっていたことから、賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができるものと改正されました(改正民法第252条第2項第2号)。
④ 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理
また、所在不明共有者が存在する場合には、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を(改正民法第251条第2項)、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定(改正民法第252条第2項第1号)することができるようになりました。
⑤ 共有者が選任する共有物の管理者のルールの整備
共有者の持分の価格の過半数の決定により、共有物の管理を行う管理者を選任(及び解任)することができるようになりました(改正民法第252条第1項、第252条の2)。
(2)共有関係の解消促進
① 裁判による共有物分割
従前、解釈上認められていた共有物の賠償分割(共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法)が明文化される(改正民法第258条第2項)とともに、分割方法の検討順序を明確化する(改正民法第258条第第3項)等の改正が行われました。
② 所在等不明共有者の不動産の持分の取得及び譲渡
共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の不動産の持分を取得すること(改正民法第262条の2)及び所在等不明共有者の不動産の持分を譲渡する権限を付与すること(改正民法第262条の3)ができるようになりました。
なお、所在不明等共有者の持分が相続財産に属する場合には、持分の取得又は譲渡は相続開始時から10年を経過したときに限り行うことができます(改正民法第262条の2第3項、第262条の3第3項)。これは、後述のとおり、10年経過後の相続に関する相続分については、原則として具体的相続分を踏まえずに決定するとされたことなどを考慮したものとなります。
3.財産管理制度の見直し
現行法上、財産を管理する者が不在の場合の財産管理制度として、不在者財産管理人制度や相続財産管理人制度が設けられていました。しかし、これらの制度は人単位で財産全般を管理することから、個々の不動産の管理にまで目が行き届かない場合があり、また、所有者が管理を放置しているような事案には適用されないため、土地・建物が管理されないまま放置されることによって危険な状態になることもありました。
これらの問題に対処するため、利害関係人の申立により、特定の土地・建物のみに特化して管理人を選任し管理を行う所有者不明土地・建物管理制度(改正民法第264条の2~第264条の8)及び管理不全土地・建物管理制度(改正民法第264条の9~第264条の14)が設けられました。
4.相続制度(遺産分割)の見直し
(1)包括的な保存型財産管理制度の創設
現行法上は、相続人が相続の承認又は放棄をするまで(現行民法第918条第2項)、限定承認がされた後(現行民法第926条第2項)及び相続の放棄後次順位者への引継ぎ前(現行民法第940条第2項)といった限られた場合でない限り、相続財産に関する管理制度は存在しておらず、共同相続人による遺産共有状態であるケースや、そもそも相続人のあることが明らかではないケースについては、相続財産の保存のために必要な管理を行うための制度が存在しませんでした。そこで、改正民法では、相続の全ての場面で利用できる統一的な保存型の相続財産管理制度が創設されました(改正民法第897条の2)。
(2)具体的相続分による遺産分割の時的限界
相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れるため、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となる旨指摘されておりました。そこで、改正民法では、原則として、相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)による(特別受益や寄与分を考慮しない)ものと改正されました(改正民法第904条の3)。
上記は本改正のうち主要な点のみをピックアップしたものですので、改正の具体的内容については、以下の法務省HP等をご参照ください。
法務省:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法) (moj.go.jp)
当事務所では、本改正を踏まえたご相談もお受けしておりますので、お悩みの方はお気軽にお問い合わせください。