改正会社法による株主提案権の制限
令和元年12月4日、会社法の一部を改正する法律が成立し(同月11日公布)、一部の制度を除き、令和3年3月1日から施行されました。今回は、同改正のうち、令和3年3月1日に施行された株主提案権の制限の概要を紹介します。
1.改正の背景
株主は、その請求の適否を問わず議案要領通知請求を行うことができる一方で、会社は、株主総会の準備に向けた限られた時間の中で請求に応じるか否かを判断しなければならず、従前は、請求が不適当と思われる場合であっても、念のために対応を行うケースがみられました。また、実質的には濫用的な請求とみられる議案にまで株主総会における審議の時間が割かれると、株主総会の意思決定機関としての機能が害されることに加え、会社における対応の検討や各種事務負担が増加するとの問題点が指摘されていました。
2.議案数による制限
今回の改正により、取締役会設置会社において、一株主が議案要領通知請求によって他の株主へ通知することを請求できる議案の数が、株主総会ごとに10個に制限されることになりました。
3.複数の株主による権利行使
複数の株主による権利行使がなされた場合、議案数による制限は、株主ごとに課されます。たとえば、株主Aと株主Bが、会社法第305条第1項の議決権数の要件を満たすために共同で6個の議案について請求を行った場合、株主Aと株主Bが別の株主とともに請求できる議案数の上限は4個となります。
なお、株主が議場において提案できる議案の数に関しては、引き続き制限はありません。
4.議案数による制限の例外
議案数による制限の規定を形式的に適用することで生じる不都合を回避する観点から、取締役、会計参与、監査役又は会計監査人(以下「役員等」といいます。)の選任・解任に関する議案、会計監査人の不再任に関する議案、及び定款変更議案について、議案数による制限を適用する場面における議案数の数え方に関する例外規定が設けられました(改正会社法第305条第4項各号)。
(1)役員等の選任・解任に関する議案(同項第1号・第2号)
対象者が何人であっても、選任・解任につきそれぞれ1議案とみなされます。たとえば、取締役甲1~甲5と監査役乙1~乙5の解任、及び丙1~丙5の取締役への選任と丁1~丁5の監査役への選任の議案は、対象者の数にかかわらず「解任」と「選任」がそれぞれ1議案ずつとなりますので、2議案と数えます。
(2)会計監査人の不再任(同項第3号)
対象者が何人であっても、会計監査人の不再任に関する議案は、1議案とみなされます。たとえば、再任しないこととする会計監査人の人数が3人であったとしても、議案数による制限を適用する場面においては、「不再任」として1議案と数えます。
(3)定款変更議案(同項第4号)
定款の変更に関する議案は、「当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合」に、一の議案とみなされます。この場合に該当する例として、監査役廃止提案と監査等委員会設置提案の組み合わせが挙げられます。会社法上、監査等委員会設置会社は監査役を置いてはならないこととされており(会社法第327条第4項)、議決が分かれると法律上相容れない定款条項の併存を招くことになるためです。
5.議案が10個を上回った場合の取扱い
当該株主の請求全体が無効となるのではなく、会社は、10個を上回る部分について当該株主による議案要領通知請求を拒絶することができることになります。また、株主が提出しようとする10個を超える議案のうち、いずれの議案を適法な請求の対象外とするかについては、①提案株主が議案相互間の順序を定めていれば当該順序に従い、②順序の定めがない場合は、取締役が決定することになります(改正会社法第305条第5項)。ただし、この決定は恣意的に判断してよいわけではなく、合理的な方法で決めなければならないとされているため、たとえば、あらかじめ株主取扱規程で合理的な基準を定めておくことが考えられます。
6.経過措置
改正法の施行前(令和3年3月1日より前)になされた議案要領通知請求については、なお従前の例によることとされています。
7.まとめ
今回は、株主提案権の制限の概要を紹介しました。令和3年3月1日以降になされた議案要領通知請求から本改正が適用されますので、株主総会前に改正内容を把握しておくことが重要です。
≪弁護士 吉浦 くにか≫
以上