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「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」について

弁護士増本 善丈

第1 はじめに

法務大臣の諮問機関である法制審議会は、2021年2月9日、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」(以下「改正要項案」)をまとめ、法務大臣に答申しました。この答申を受けて法務省は、今国会会期中に関連法案を提出する方針です。都市部への人口流入が続き、地方の土地について相続等がありながら長年相続登記がなされないこと等の理由により「所有者不明土地」(ここでは、不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地と定義します。)が激増し社会問題となっています。所有者の探索に多大な時間を要すれば、土地の円滑、適正な利用に支障が生じ、今後相続が繰り返される中で益々深刻になるおそれがあることから、「所有者不明土地」を巡る諸問題の解決を図ることを目的として今回の改正要綱案がまとめられました。

第2 改正要綱案の概要

改正要綱案は、以下のように、所有者不明土地の発生を予防するための仕組みと、所有者不明土地を円滑・適正に利用する仕組みに分けて整理することができます。

1 所有者不明土地の発生を予防するための仕組み

(1)不動産登記情報の更新を図る方策
・相続登記の申請の義務化等(→第3・1
(2)所有者不明土地の発生を抑制する方策
・土地所有権の放棄(→第3・2)
・遺産分割の期間制限(→第3・3

2 所有者不明土地を円滑・適正に利用する仕組み

(1)共有関係にある所有者不明土地の利用
・民法の共有制度の見直し
(2)所有者不明土地の管理の合理化
・不在者財産管理制度、相続人不存在財産管理制度の見直し(→第3・4
(3)隣地所有者による所有者不明土地の利用・管理
・民法の相隣関係規定の見直し

第3 改正要綱案のポイント

前記2で示した改正要綱案のうち、大きなポイントは以下の4点になります。

1 相続登記の申請が義務化されます

相続不動産の取得を知ってから3年以内の所有権移転登記、転居等により名義人の住所や氏名が変更してから2年以内の変更登記の各申請を義務化し(正当な理由なく怠れば、それぞれ10万円以下と5万円以下の過料が課されます。)、一方で相続登記の際の提出書類を簡略化するほか、法務局が住民基本台帳ネットワークに照会し名義人の死亡情報や住所変更を把握できるシステムが作られます。

2 土地の所有権の放棄が一定の要件のもとに認められます

現行法では、土地所有権の放棄に関する定めはありませんが、相続した土地の所有権の放棄を認める制度が新設されます。ただし、土地の所有は不法行為や相隣関係に関する責任を伴うものであり、放棄後の帰属先である国の負担を軽減するため、①更地であること、②担保提供されていないこと、③土壌汚染がないこと等を要件とし、放棄申請者は10年分の管理費用相当額を納める必要があります。

3 遺産分割の期限が10年となります

現行法では、遺産分割の期限が設定されていないため、遺産分割がされずに遺産共有状態が継続し、遺産分割の当事者の死亡等により権利関係が複雑化し、所有者不明土地が多く発生しているため、遺産分割の促進を図るべく、相続開始後10年経過しても家庭裁判所に遺産分割の請求がされない場合は、法定相続分の割合に従って自動的に分割する仕組みが設けられます。

4 相続人が不明な場合の財産管理制度の見直し

相続人が不明な場合、現行法では、不在者の財産管理制度(第25条)や相続財産管理制度(第952条第1項)がありますが、いずれも不在者の財産又は相続財産全てを管理の対象とするため、管理コストが過大になることから、特定の財産のみを対象とし得る財産管理制度が設けられます。

第4 おわりに

民法については、昨年4月から改正債権法が施行され、2019年7月から段階的に施行されていた改正相続法も昨年7月から全面的に施行されており、物権法を扱う今回の改正は、いわば民法改正の「総仕上げ」としても位置付けることができます。今回の要綱案の立法事実は十分に認められるところであり、実際に所有者不明問題に遭遇していた当職にとっても、今回の改正要綱案はまさに待望していたものです。

近年は、民法、会社法、民事執行法といった民事法制の改正が相次ぎ、ハードローのみならずソフトローも含めれば、常にいずれかの分野でルールの改正がなされている状況にあり、特に債権法の改正においては、実務上混乱を生じている論点も見受けられますが、今回の改正要綱案のような十分な立法事実に裏付けられた改正は、ユーザーである国民にとっても大いに歓迎されるべきことであり、改正法対応へのご相談に十分なサービスをご提供できるよう、日々の研鑽に務めて参りたいと思います。

≪弁護士 増本 善丈≫