コラム

契約締結時の注意事項(「契約の相手方は誰か」)について

弁護士藤原 孝仁

日常生活において、例えば商店街に行ってお店で食料品や日用品を買うに際し、漠然と「〇〇商店」でお肉を買ったとか、「スーパーマーケットの〇〇」でお魚を買ったといった認識で取引(売買契約)を行っており、それで特に生活するうえで不都合が生じることも無いかと思われます。
 おそらく、わざわざ、「今日お肉を買ったお肉屋さんの『〇〇商店』は、『〇〇商店』という屋号で商売をしている個人の〇〇さんの経営である」とか、「お魚を買った『スーパーマーケットの〇〇』は株式会社〇〇が経営しているスーパーマーケットである」といった取引の相手方(法的責任主体が何者であるか)を常に意識して取引をするという人は稀なのではないでしょうか。

日常生活における短期間に消費される高額ではない商品の単発の取引の場合、後日法的問題が生じるということも少なく、わざわざ取引の相手方が誰であるかを明確に意識する必要はないかと思われ、それで特段の支障も生じないのが現実です。
 しかしながら、企業活動等において長期継続的な取引関係に入る場合(例えば、継続的な商品供給契約の締結、土地建物の賃貸借契約の締結等)や単発ではあっても高額な取引(高額な商品を契約の対象物とする売買契約の締結等)を行う場合、万が一将来的な問題(代金の未払い、商品の不良等)が生じた場合に契約に基づく法的責任の追及先は契約の相手方ということになりますので、契約締結時において契約の相手方が誰であるのかということを明確に意識した上で特定しておくことが重要になります。

契約の相手方が誰かが問題となる事案の例として、賃貸借契約の借主として株式会社等の明確な法人との契約ではなく何らかの団体の名称で、その代表者ということで個人名がでてくるというかたちでの契約を求められた例(「〇〇会代表者〇〇」等)などを過去に見かけたことがあります。
 契約の相手方が、個人事業を営む「個人」であるのか、あるいは何らかの「法的人格権を有する団体」であるのか等が明確にされておらず、契約上の法的責任主体が不明確なまま契約締結に至りますと、後日、法的責任を追及する際に誰に対して責任追及をすればいいのかが確定できず、結果、法的責任追及ができないということにもなりかねませんので、注意が必要です。
 また、例えば、契約主体が明確に法人であった場合に、仮に契約締結後に契約内容通りの履行がなされず、相手方に対して法的責任追及が必要となった場合の責任追及の相手方は当該契約の相手方となっている法人のみとなりますので、この点についても注意が必要です。すなわち、一応「法人格否認の法理」等の法理論があるとはいえ、基本的には法人制度は法人と個人とを法的主体として分けることを前提とした制度ですので、法人を相手方とする契約において代表者個人等に対して当然には責任追及は出来ず(出資者が無限責任を負う合名会社などにおける無限責任社員に対する責任追及は除きます)、法人代表者個人等に対して責任追及をするためには、別途連帯保証契約等を法人の代表者等と結んでおく必要があります。

このように、誰と契約をするのか(契約上の責任を負う法的主体となる契約の相手方は誰か)ということは、取引関係に入るに際して避けては通れない話ではあるものの、意外と厳密には意識されていない例も散見されるところであり、注意が必要かもしれません。

以上