コラム

不動産(土地)売買契約におけるいわゆる「更地」引渡しについて

弁護士藤原 孝仁

不動産(土地)売買契約書において土地上の既存の建物を売主の方で売買実行(代金の引渡し及び土地の引渡し時点)までに解体し、「更地」で引き渡す旨の合意がなされている例を間々みかけます(いわゆる「更地渡し」の土地売買契約)。ここでいう「更地」とはどのような状態を意味するものかについて以前ご質問を受け、検討する機会がありましたのでその概要をご紹介させていただきます。

不動産(土地)売買契約における「更地」について民法等法令上明確な定義はなされておらず、国語的な意味としては、「地上に建築物などのない宅地」(岩波出版『広辞苑第7版』)をいうものとされています。

法令上の定義条項までは定められていないものの、国土交通省が定める「不動産鑑定評価基準」において、「更地」とは、「建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地」をいうものとされています。

土地の上に建物等を建てようとする場合の段取りを考えますと、古家等の既存の建物が存在すれば、その建物を解体・撤去した後、さらに次の段取りとして「整地」を行うのが一般的な段取りとなります。ここでいう「整地」も法令上の用語ではなく、国語的な意味としては、「建築をする前に行う土地の整理。土地をならすこと。」(岩波出版『広辞苑第7版』)をいうものとされています。

以前ご質問を受けた際の当事者間の主要な認識の相違は、土地上の既存建物の解体・撤去がなされた状態での土地の引渡しが「更地」引渡したり得るか(古家の解体撤去に加えて、さらに一定程度土地をならすこと(「整地」)まで行う必要があるか)、という点にありました。

この点、契約書における文言の意味について明確な定義条項などがなくその意味するところについて一義的な解釈が困難な場合、一般的には契約締結に至る過程における交渉経過なども踏まえて契約締結時の契約当事者間の合理的な意思を考慮して解釈することとなります。

不動産(土地)売買契約締結の際、契約当事者間及び仲介業者を含めて「更地渡し」という場合の「更地」の厳密な意味(引渡時の状況)について協議交渉しているかといわれますと、おそらくほとんどの取引においてそのような協議は行っていないものと思われ(もちろん、契約締結過程において協議交渉が行われていればその経過が当事者間の合理的意思解釈の指標となります)、漠然とした当事者及び関係者間の認識としては、「建物の無い状態の土地」という程度の認識で契約が締結されており、一般的な国語的な意味ないし不動産鑑定評価基準のいうところの意味での「更地」を前提として契約締結がなされているものと考えられます。少なくとも売買実行後に土地をどのように使用するか(どのような建物を建てるか等)は買主次第である以上、売買実行後の次の建築にあわせた「整地(土地をならすこと)」までを「更地」に含むものとの合意が契約当事者間に当然にあるとは解し難いと考えられます。

従いまして、いわゆる「更地渡し」契約における「更地」の意味として契約締結過程において特に議論がなされていない場合、当然に「整地」に該当する内容まで伴うと解することは困難であり、基本的には既存の建物を解体撤去した状態すなわち地上に建築物などのない宅地としての引渡しを行うことが契約上の内容(売主の債務(契約上の義務))と考えられます。

このように、売買契約締結時にはあまり議論となっておらず、ごく一般的な表記として契約が締結されており、後日、契約書の内容や表現の解釈について議論となる例などもあるかと思われますが、当事務所においては不動産取引全般について豊富な知識経験を有する弁護士が複数在籍しておりますので、不動産の取引について問題が生じたような場合にも取引慣習に即した適切な法的助言が可能です。

【弁護士 藤原孝仁】