トピックス

共有に属する株式の議決権行使についての最高裁判決の紹介

弁護士中野 丈

会社法106条本文は、株式が複数人により共有されている場合、当該株式の権利を行使するためには、共有者において、その行使者1人を指定し会社に通知する必要があるとします。一方で、同条ただし書は、株式会社が当該権利行使に同意した場合をその例外とします。

では、2分の1の持分しか有しない株式の共有者の1人が、他の共有者の意思に反して権利を行使した場合でも、当該株式会社が会社法106条ただし書の同意をすれば、適法な権利行使だと認められるのか。このような事案についての最高裁判決が近時出ました。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/875/084875_hanrei.pdf

①平成27年2月19日最高裁第一小法廷判決(以下「本判決」)は、会社法106条本文を民法の共有に関する規定の「特別の定め」(民法264条ただし書)と位置付け、同条ただし書を同条本文の適用排除規定と位置付けました。

そのうえで、「共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではない」と判示しました。

②また、本判決は、「共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるもの」と判示しました。

①について

本判決は、共有に属する株式の権利行使が民法の共有に関する規定に従うべきものであることを原則として、会社法106条ただし書に基づく株式会社の同意があっても、同条本文が規定する指定や通知が不要となるにすぎず、民法の共有規定に従うべきことまでが覆るものではないとしたものだと解されます。

②について

本判決によれば、議決権の行使が株式の処分や内容の変更につながるといった特段の事情がある場合には、民法251条に従い、その権利行使に共有者全員の同意を要するものと解されているようにも読めますが、この点の明言はしていません。

なお、会社法制定前の判例である平成11年12月14日最高裁同判決は、共有に属する株式の権利行使に必要な指定及び通知について定めていた旧商法203条2項(注:会社法106条と違い、ただし書は不存在。)に関し、「権利行使の指定及び会社に対する通知を欠くときには、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使を認めることは許されない」としていました。

【参照条文】

会社法106条

「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」

旧商法203条2項

「株式ガ数人ノ共有ニ属スルトキハ共有者ハ権利ヲ行使スベキ者一人ヲ定ムルコトヲ要ス」

(注:ただし書は不存在)

民法251条

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

民法252条本文

「共有物の管理に関する事項は、前条(注:共有物の変更についての条文)の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」

民法264条

「この節(注:「共有」についての民法第三節)の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りではない。」

以上