判例紹介

医療法上の「特別の利害関係」と、会社法上の「特別の利害関係」

弁護士中野 丈

(1)医療法人における社員総会の位置付け

会社法では、総株主によって構成される株主総会が、株式会社の最高意思決定機関と位置付けられています。

同様に、医療法では、総社員によって構成される会議体である社員総会が、社団たる医療法人の最高意思決定機関とされ、医療法および定款で定めた事項について決議するものと定められています(下記アドレス先の過去のトピックもご参照下さい)。

https://spring-partners.com/topics/1771/

(2)医療法上の「特別の利害関係」を有する社員とは

医療法上、医療法人の社員総会の決議について、「特別の利害関係」を有する社員は、議決に加わることができないと定められています(医療法第46条の3の3第6項)。

この点、地方裁判所の判決には、除名決議の対象とされている社員については、「特別の利害関係」を有する社員に該当し、議決に加われないとするものがありました(平成28年2月29日東京地裁)。

しかしながら、令和5年8月9日東京高等裁判所の判決は(その原審と同様に)、上記の「特別の利害関係」とは、社団の構成員としての立場以外の個人的立場から有する利害関係を意味するとし、社員の除名議案において対象とされた社員が、社団の構成員としての立場で自らの意見に基づいて議決権を行使し、これに反対する場合には、「特別の利害関係」を有する社員には当たらず、議決権を行使できるとしました。

同判決は、高等裁判所として初めて判断を示したものとして意義があります。

(3)会社法上における「特別の利害関係」

現行の会社法上は、「特別の利害関係」を有する株主について株主総会での議決に加わることができないというような定めはなく、「特別の利害関係」を有する株主が議決権を行使したことによって「著しく不当」な決議がされたときに限り、決議の日から3カ月以内に訴えをもって株主総会決議の取消を請求することができるとされているのみです(会社法第831条第1項第3号)。

また、株式会社は、株主総会の決議によって取締役や監査役を選任・解任しますが、その解任決議の対象とされた取締役が株主でもあった場合、当該取締役は「特別の利害関係」を有する株主に当たらないとした最高裁判例があります(昭和42年3月1日最高裁判決)。

一方で、株式会社の取締役で構成される取締役会については、「特別の利害関係」を有する取締役は、議決に加わることができないとされています(会社法第369条第2項)。

取締役会は、代表取締役を選定・解職しますが(会社法第362条第2項第3号)、解職決議の対象となった代表取締役は、その決議について「特別の利害関係」を有する取締役に当たるとする最高裁判例があります(昭和44年3月28日最高裁判決)。もっとも、これに反対する学説も有力です。

(4)法律文言の解釈の難しさ

以上のとおり、いずれも組織における構成員たる法律上の地位がはく奪されようとする場面での、同じ「特別の利害関係」という文言の解釈について、違いが生じてきます。

これは、法律の文言が、形式面のみからでなく、その法律の趣旨から合理的に考えて解釈されることによるもので、法律が難しく奥深いところでもあります。

以上