判例紹介

株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡に関する新判例のご紹介(最高裁第二小法廷令和6年4月19日判決)

弁護士渡邉 聖人

1 問題の所在

平成18年に会社法が施行され、株券不発行が原則となって久しいところです。しかし、会社法施行前からの株式会社については、株券を発行しない旨の定款の定めがない場合には、株券発行会社とみなされ(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律76条4項)、その結果、現時点においても、定款変更をせずに株券発行会社となっている会社も数多く存在するところです。

このような会社は、同族経営の非公開会社であり、株式譲渡も頻繁に行われるものではなく、非公開会社では、株主からの請求があるまでは株券を発行しないことができるため(会社法215条4項)、株券を発行しないままでいることが多いです。

しかし、例えば後継者に経営を委譲する場合や一部の少数株主の資金需要の要望等に応じて、株式譲渡が行われる場合が生じます。この際、譲渡承認決議は行ったものの、株券の発行及び交付を失念していることがしばしばみられます。

平時であれば特段問題はないのですが、後日、譲渡人と譲受人との間で紛争となった際、「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。」とする会社法128条1項と、「株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。」とする同条2項が存在する関係で、同株式譲渡の効力の帰趨が問題となります。

これまで、会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定するのを相当としない状況に立ち至った場合には、株主は、意思表示のみによって有効に株式を譲渡でき、会社は、株券発行前であることを理由としてその効力を否定することはできず、譲受人を株主として扱わなければならない旨判示する最高裁判例(最高裁大法廷昭和47年11月8日判決・民集26巻9号1489頁)がありましたが、同状況に立ち至っていない場合について、譲渡当事者間における株式譲渡の効力や、譲受人の対処方法は明らかではありませんでした。

最高裁第二小法廷令和6年4月19日判決(以下「紹介判例」といいます。)は、これらの問題につき最高裁として初めて判示し、今後、会社法128条の解釈及び運用の指針として重要となると思われますため、ご紹介します。

2 判示事項1(株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはない)

紹介判例は、まず、「株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはない」と判示しました。

従前から、株券発行前の株式譲渡であっても当事者間では有効であると解するのが通説であったとされており(山下友信編『会社法コンメンタール3』316頁)、同判示は、その点を最高裁として明示的に認めたものです。

3 判示事項2(株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができる)

紹介判例は、「株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文(平成29年法律第44号による改正前のもの)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができる」とし、さらに、「株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができ」、「株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。」と判示しました。

したがって、譲受人としては、会社に対して、債権者代位権に基づいて、株券を直接自己に交付するよう求めていくことになり、会社は、譲受人から同請求を受けた場合には、譲受人に対して、株券を交付することになります。

以 上