判例紹介

【判例紹介】全店一括順位付け方式の預金差押えが認められる場合

全店一括順位付け方式の預金差押えが認められる場合

(平成30年6月20日名古屋高裁金沢支部決定)

債権者が、債務者に対する請求債権について債権差押手続を利用して債務者の預貯金債権から回収しようとする場合において、債権差押申立てにあたり、金融機関の本店・支店からなる全ての店舗、及び同店舗の全種類の預貯金債権を対象としたうえで、これら店舗及び種類にそれぞれ順位付けをして先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押債権とする方式(いわゆる全店一括順位付け方式。)をとる場合があります。

全店一括順位付け方式は、債権者にとっては、金融機関の全店舗を対象とできるため、そのうちどの店舗に債務者の預貯金債権が存在しているかまで調査せずにすむという利点がありますが、最高裁は、これを差押債権の特定を欠き不適法と判断しており(最高裁平成23年9月20日決定。以下「平成23年最高裁決定」といいます。)、実務では通常否定されています。

金融機関が大規模金融機関の場合には、必ずしも本店等の1箇所で全国の店舗の預貯金債権の存否、先行する差押え・仮差押えの有無、預貯金の種別、残高を調査できるとは限らず、まず先順位の取扱店舗においてこれらを調査のうえ、先順位の取扱店舗のみでは差押債権額に不足し、他に後順位の取扱店舗の預貯金債権があるときは、先順位の取扱店舗からあるいは本店からその旨の連絡を受けて、後順位の取扱店舗が同じ調査を行うことになることもあるようです。上記平成23年最高裁決定は、かかる金融機関における実務を考慮し、全店一括順位付け方式では、差押命令の送達を受けた金融機関において、差押の効力が差押命令送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ確実に、差し押えられた債権を識別することができるとはいえず、差押債権の特定を欠き不適法としたものと解されます。

しかしながら、平成30年6月20日名古屋高裁金沢支部決定(以下「本決定」といいます。)は、上記の理はおよそ全ての金融機関に当てはまるのではないとして、以下の事情があった金融機関の事案において、全店一括順位付け方式を認めました。

● 本件の金融機関は、公式ウェブサイト等によれば、実店舗は首都圏や関西圏を中心に十数店舗を設けているが、実店舗を訪れなくても電話やインターネットの利用により預金口座の新規開設を始めとする多くの手続・取引等を行うことができ、預金債権の管理について、取扱店舗を設けていないか又は設けていても少なくとも取扱店舗の特定は重要な要素でないと推認される

● 本件の金融機関は、債権者側の照会に対し、当該金融機関の本支店に債権差押命令が送達された場合、全店を対象として口座の確認を行っていること、氏名と住所により全店検索を行っているため複数の店舗に預金債権が存在する場合でも口座の検索につき時間及び確実性に違いはないこと等を回答している

いわゆるインターネット専業銀行においては、便宜上口座に支店名を付していても、人的・物的設備を有する実店舗を設けず又はこれを設けていたとしても預金債権の管理を本店等の1箇所で行っている場合があります。

本決定は、このような大規模金融機関とは異なる個性ないし特性のあった「本件の第三債務者については」、全店一括順位付け方式でも、差押債権を識別するのに格別の負担をかけるものでなく、差押債権の特定に欠けるところはないとしたものです。なお、本決定は確定しています。

平成23年最高裁決定の射程を解釈により限定した本決定のような裁判例が続くのか、今後の動向が気になるところです。

以上

《弁護士 髙橋 祥子》