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【ニュース】労働基準法改正案について

 一部報道でも取り上げられているように、労働基準法改正案(以下「改正案」といいます。)が、第189回通常国会に提出される予定です。厚労省の発表した改正案の骨子は以下のとおりです。

(1)働き過ぎ防止のための法制度の整備等

 ①中小事業主に対する割増賃金率適用猶予の見直し

 現行法では、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を5割以上とする労基法第37条第1項但書の適用に関して、中小事業主(中小企業基本法第2条第1項の規定する中小企業者と同義)については当分の間適用を猶予する旨規定していますが(同法第138条)、改正案では、上記適用猶予を見直すことが提言されています。

 ②年次有給休暇の取得促進

 本改正案では、年次有給休暇の取得率が低迷している実態を踏まえ、年次有給休暇の取得が確実に進むよう、使用者において、毎年一定日数の年次有給休暇を時季指定するよう義務付けることが提言されています。なお、計画年休制度(労基法第39条第6項)を利用している使用者に対しては、時季指定を行うべき日数等において調整が図られることが想定されています。

(2)フレックスタイム制の見直し

 現行法では、1か月という清算期間の上限が設けられていますが、本改正案では、生活上のニーズと仕事との調和を図りつつ、メリハリのある働き方を一層促進するべく、清算期間の上限を3か月に延長することが提言されています。

(3)裁量労働制の見直し

 専門業務型裁量労働制と並んで規定されている企画業務型裁量労働制(労基法第38条の4)について、現行法では、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」(以下「企画立案調査分析業務」といいます。)のみが対象業務とされています。これに対し、改正案では、事業活動の中枢を担っている労働者が、仕事の進め方や時間配分に関して主体性をもって働けるようにするという同制度の趣旨に即した活用を促すため、対象業務を追加するとともに、同制度を導入する上で必要な労使委員会決議の届出(同法第38条の4柱書)について、本社一括届出を認めるといった手続の簡易化を図ることが提言されています。そして、追加が提言されている対象業務としては、①企画立案調査分析業務と一体的に行われる商品やサービス内容に係る提案型営業業務(具体例としては、「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の調整等を行い、当該ニーズに応じたオーダーメイド型の商品あるいはサービスを開発し、販売する業務」や、「単に素材を売り込むのではなく、市場ニーズを適切に把握しつつ、新素材の特性を活かし市場ニーズに対応した新たな商品とともに、当該商品をどのような生産体制で、どのような戦略で販売するのかを総合的に提案する素材の営業業務」等が想定されています。)や、②企画立案と当該立案内容の推進業務を一体として行う業務のように、裁量的にPDCAを回すような業務(具体例としては、「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案するとともに、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で示された意見等をみて、さらなる改善の取組計画を企画立案する業務」等が想定されています。)が挙げられています。

(4)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)の創設

 「ホワイトカラーエグゼンプション」という名称で報道でも大きく取り上げられているように、改正案では、一定の年収要件(1075万円が参考金額とされています。)を満たし、かつ、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者(具体例としては、金融商品の開発、ディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタント業務、研究開発業務等が挙げられています。)を対象に、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した制度の創設が提言されています。

 改正案は、高度プロフェッショナル労働制の導入や企画業務型裁量労働制の対象業務の追加等、成果型賃金制度の促進に向けて舵を切る一方、これまでに、管理監督者制度や裁量労働制度が長時間労働の温床となってきたことをも踏まえ、過重労働により労働者の心身の健康が損なわれる結果を招くことのないよう、労働時間の客観的な把握及び面接指導の実施(労働安全衛生法第66条の8)等に関する使用者の義務を強化することで調和を図っているものと考えられます。本改正自体が及ぼす影響力はさほど大きくないと考えられていますが(一例を挙げると、高度プロフェッショナル労働制の対象となり得る労働者は、20万人程度にとどまると言われています。)、本改正を機に成果型賃金制度が拡大していくことも十分考えられますので、今後、同制度の導入を検討される場合は、「成果」を客観公正に評価できる仕組みを整えていくことが肝要であると思われます。

 改正案の骨子については、厚生労働省「今後の労働時間法制等の在り方について」(

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000071224.pdf )をご参照下さい。

以上

《弁護士 石井 林太郎》