【ニュース】日本版スチュワードシップ・コードについて
本年6月10日、金融庁が、いわゆる日本版スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストを公表いたしました。
本年5月末までに受入れ表明を行ったものとして、合計127の機関投資家(信託銀行等6、投信・投資顧問会社等86、生命保険会社14、損害保険会社5、年金基金等12、議決権行使助言会社等4)の名称及び当該受入れ表明等に係るURLが公表されています。
http://www.fsa.go.jp/news/25/sonota/20140610-1.html
上記日本版スチュワードシップ・コード、ないし「責任ある機関投資家」の諸原則(以下「本コード」といいます。)は、「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」がとりまとめたものとして、本年2月27日に金融庁から発表されていたものです。
http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2.html#02
本コードは、「スチュワードシップ責任」を、機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく「建設的」な「目的を持った対話」などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含むとされます。)の「中長期的な投資リターンの拡大」を図る責任であると定義づけています。その上で、同コードを、機関投資家が、「顧客・受益者と投資先企業の双方」を視野に入れ、「責任ある機関投資家」として「当該スチュワードシップ責任を果たすに当たり有用と考えられる諸原則」を定めたものと説明しています。
また、本コードは、それ自体が法的拘束力を有するものではなく、これを受け入れる機関投資家においてその旨を「公表」することを意図して作成されたものとされ、更に、「本コードの原則の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを実施しない理由を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも想定している」として、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法が採用されています。
本コードでは、上記観点から以下の7つの「原則」を定めるとともに、各原則につき、それぞれ解説的な指針を置いています。
1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。
金融庁は、上記本コード確定版の発表と併せて、本年5月末までに本コードの受入れ表明を行った機関投資家のリストを取りまとめて公表すること、また、当該公表リストを以後3ヶ月毎にまとめて更新すること(2、5、8、11月末までの状況について、翌月初めに更新・公表すること)を発表していました。今般の6月10日付の公表は、この初回の公表として行われたものです。
なお、本コードでは、機関投資家がコードの趣旨に賛同しこれを受け入れる場合に公表すべき事項として、コードの受入れ表明それ自体の他に、以下の項目(及び、実施しない原則がある場合にはその理由の説明)を挙げています。
(1)【原則1関係】スチュワードシップ責任を果たすための方針
(2)【原則2関係】スチュワードシップ責任を果たすに当たり管理すべき利益相反についての方針
(3)【原則5関係】議決権行使についての方針(議決権に係る権利確定日をまたぐ貸株取引を行うことを想定している場合、当該貸株取引についての方針もあわせて記載。)
(4)【原則5関係】議決権行使結果(議決権行使助言会社のサービスを利用している場合、その旨及び当該サービスをどのように活用したのかについても、あわせて記載。)
上記項目のうち(1)~(3)については、本来的には、コードの受入れ表明と合わせて公表されることが想定されるものですが、金融庁としては、今回のリスト公表の対象となる本年5月末までの受入れ表明に関しては、「時間的な余裕があまり無いことや幅広い機関投資家の賛同を促す観点から、まずはコードの受入れ表明のみを行い、上記公表項目については、次回(9月初め)のリスト更新時までに公表を行っていただくことも可能」と説明していました。このため、今回はひとまず受入れ表明だけを行い、上記の各具体的方針等については、内容が確定次第別途公表するとしている機関投資家がかなりの割合を占めるようです。
本コードがどのような社会経済的意義を有することになるかは、現実的には、国内機関投資家による上記具体的方針等の公表内容次第ともいえるところであり、投資先企業の側としても、次年度以降の株主総会を見据えて、かかる公表内容の検討を行っていくことになるかと思われます。これらの観点を含め、今後の機関投資家による公表内容が注目されるところです。
最後に付言するに、本コードに関しては、「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」との資料が公表され、本コードに関連するものとして以下1~3の法的論点が検討されています。
http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/legalissue.pdf
1.大量保有報告制度における「重要提案行為」と「投資先企業との対話」との関係
2.大量保有報告制度における「共同保有者」・公開買付制度における「特別関係者」と
「他の投資家との協調行動」との関係
3.インサイダー取引規制等における「未公表の重要事実の取扱い」と「投資先企業との対話」との関係
このうち、例えば3のインサイダー取引規制等との関係については、本コード中において、機関投資家としても公表された情報のみをもとに建設的な「目的を持った対話」を行うことも可能であること、投資先企業側の未公表の重要事実について株主間の平等を図る必要性等に鑑み、機関投資家においても、「対話」において未公表の重要事実を受領することについては「基本的には慎重に考えるべき」とした上で、「投資先企業との特別な関係等に基づき未公表の重要事実を受領する場合には、当該企業の株式の売買を停止するなど、インサイダー取引規制に抵触することを防止するための措置を講じた上で、当該企業との対話に臨むべき」との説明が行われています(本コード日本語版10頁4-3及び注釈10)。
この点を含め、上記法的論点に関しては、投資を受ける企業の側としても、機関投資家との「対話」等に際して確認を行っておくことが望ましいかと思われます。
以 上