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【事例紹介】民法上の一般法理としての「事情変更の原則」のご紹介(新型コロナウイルスによる社会経済環境の変化に関連して)

 いわゆる新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大状況を踏まえ、現在、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、「緊急事態宣言」が発令されております(対象地域日本全国。2020年5月6日まで。)。

 かかる状況下において、日々の経済活動等に重大な影響がでているところですが、これに関連して、今回の事態発生前から締結されていた契約の内容についての変更や契約の中途解約・解除等ができないかといったご相談なども増えております。

 契約内容の変更や中途解約・解除等の可否につきましては、まずは、契約書等で従前合意されている契約内容に基づいて契約の変更。中途解約・解除等の可否を検討し、契約書に具体的条項がない場合も民法上の債務不履行、契約不適合責任(瑕疵担保責任)等による処理の可否を検討し、更には、それらの適用が困難な場合、任意の協議交渉をもって当該事態への対応を進めていくということになりますが、今回のような非常事態の際にのみ適用を検討し得る例外的な民法上の一般法理としまして、信義則に基づく「事情変更の原則」(民法第1条2項)もありますのでその概要をご紹介致します。 

 「事情変更の原則」は、一般には、契約の成立後、その契約の基礎となっている事情につき、契約当事者が当初予見し得なかった著しい変化が生じ、もとの契約内容をそのまま履行させることが当事者間の衡平を損ない、信義に反する結果となる場合、契約の改定または解除がみとめられてしかるべきというものとされております(有斐閣「新版 注釈民法(1)総則(1)」)。

 本来契約は守られるべきものですが、契約締結後の事情の変化が著しい場合においてその変化が予想し得ないものであった場合においても絶対的に契約は守られなければならないという原理を貫きますと世の衡平を損ない、社会正義に反するような場合に用いられる非常手段的な法理です。

 学説及び判例上、「事情変更の原則」が適用される要件としましては、

①契約後に契約の基礎たる事情に著しい変化が生じたこと。

②事情変更が契約当初予見不可能であったこと。

③事情変更の結果、もとの契約の拘束力をそのまま承認することが信義則に反する結果となること。

とされております。 

 契約締結の時点及び状況等によって個別具体的判断が必要となりますが、今回の新型コロナウイルスによる経済情勢の変化等諸契約を取り巻く環境の変化につきましては、②の要件については比較的要件を充たし易い状況となっているものと考えられます。とはいえ、本来契約は守られるべきであり、一定の事情の変更による当事者の得失等は基本的には契約当事者の契約上のリスク(ビジネスリスク)として処理されるべきものであり、「事情変更の原則」は民法の条文に明確に記載されている法理ではなく、かつ、上記のとおりその適用要件も抽象的であり、あくまでも想定外の事情発生にともなう非常時の救済措置として例外的に適用が認められるものであることから、①の「著しい変化」、③の「信義則に反するか否か」等の要件は非常に厳格に判断されるものとなっており(過去の判例でも家屋の売買契約において、売主の居宅が戦災によって消失し、この家屋が居住のために必要となったということだけでは適用は認められないとする例などもあります(最判昭和36年6月20日))、安易に当該原則をもって契約内容の改定や解除が認められるものではありません。

 しかしながら、今回の新型コロナウイルスによる経済情勢の変化等は過去数十年間に何度か生じている単なる経済不況とは状況を異にしていますので、契約の具体的内容等個別具体的判断の結果、当該原則の適用もやむを得ない契約もあり得るものと考えられます。

以上

(弁護士 藤原 孝仁)