【ニュース】民事裁判手続のIT化をめぐる動向
1.我が国の民事裁判手続
我が国の民事裁判手続においては、平成16年の民事訴訟法改正により、最高裁判所規則を定めることによって裁判所に対する申立てその他の申述をオンラインで行うことが可能とされています。しかし、平成18年に支払い督促手続についてオンラインでの申立てが導入されたものの、民事訴訟一般については最高裁判所規則が未整備であり、オンラインでの訴え提起等を行うことはできず、諸外国と比べITの活用が非常に遅れた状況にあったため、近年、民事裁判手続のIT化に向け様々な議論が進められてきました。
2.検討状況
平成30年3月、内閣官房に設置された「裁判手続等のIT化検討会」において、「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-『3つのe』の実現に向けて-」と題する報告書が取りまとめられました。同報告書は、基本方針として裁判手続等の全面IT化を目指すべきであるとしたうえで、①「e提出」(書面のオンライン提出、訴訟記録の電子記録への一本化等)、②「e事件管理」(訴訟記録への随時のオンラインアクセス、オンラインでの裁判期日調整等)③「e法廷」(ウェブ会議・テレビ会議、争点整理段階におけるITツールの活用等)という「3つのe」について、現行法の下でも実現が可能なものから3段階に分けて順次実現を目指すというものです。同報告書を踏まえ、今月21日には法制審議会への諮問が行われる予定となっています。
3.スケジュール
IT化の段階的実現は、「フェーズ1」(現行法の下でのウェブ会議・テレビ会議等の運用)、「フェーズ2」(新法に基づく弁論・争点整理等の運用)、「フェーズ3」(新法に基づくオンラインでの申立て等の運用)の順に行うことが予定されています。
「フェーズ1」については、今月、東京地裁、大阪地裁、名古屋地裁、広島地裁、福岡地裁、仙台地裁、札幌地裁、高松地裁、知財高裁の各本庁(ただし、東京地裁及び大阪地裁は、民事訴訟事件を取り扱う一部の部に限定されます。)において、インターネットを利用したウェブ会議が導入されており、本年5月には、横浜地裁、さいたま地裁、千葉地裁、京都地裁及び神戸地裁の各本庁にも導入されることになります。
「フェーズ2」は、法制審議会の諮問を経て令和4年頃の実現が目標とされており、その後は「フェーズ3」に進む予定です。裁判手続等の全面IT化の達成にはまだ時間がかかりますが、既にウェブ会議は導入されており、今後IT化が進むことにより、民事裁判の迅速化・効率化が期待されます。
≪弁護士 吉浦 くにか≫