【ニュース】次世代医療基盤法のご紹介
平成30年5月11日、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(以下「次世代医療基盤法」といいます。)が施行されました。次世代医療基盤法は、医療ビッグデータを活用することにより、健康・医療に関する最先端研究開発及び新産業創出を促進し、健康長寿社会の形成に資するために、平成29年5月30日施行の個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます。)の特例として制定されたものです。概要は以下のとおりです。
1.制定の背景
個人情報保護法の下では、病歴などの要配慮個人情報を第三者に提供する場合、オプトアウト(本人の求めに応じて提供を停止する場合において、一定の要件の下、本人の同意を得ずに個人情報を第三者に提供することができる制度)の方法によることはできず、原則としてオプトイン(本人の同意の取得)を行わなければなりません。一方で、特定の個人を識別できないように加工された匿名加工情報については、個人情報と比較して緩やかな規律で第三者に提供することができることとされています。
しかしながら、医療機関が、自ら個人情報に匿名加工を施し、又は適切な匿名加工能力を有する事業者に加工を委託することは困難であり、実際は、医療機関ごとに医療情報が分散して保有されたままで、医療ビッグデータが十分に活用されていないとの問題点がありました。
2.制度の概要
上記問題に対応するため、次世代医療基盤法では、医療機関や薬局等の医療情報取扱事業者は、一定の要件を満たす丁寧なオプトアウトを行うことにより、オプトインの方法によらなくとも、認定匿名加工医療情報作成事業者(以下「認定事業者」といいます。)に対して医療情報を提供することができることとされました。また、認定事業者は、提供された医療情報を匿名加工した「匿名加工医療情報」を利活用者へ提供することができます。
これは、患者側から見れば、明示的な同意がないまま自己の医療情報が第三者たる認定事業者に提供され、当該事業者により匿名加工されたうえで更に利活用者に提供されることを意味するため、認定事業者に係る認定基準は非常に厳格なものとなっています。
(1)丁寧なオプトアウトとは
医療機関や薬局等の医療情報取扱事業者は、本人から医療情報を取得する際、以下の情報をあらかじめ本人へ通知するとともに、主務大臣に届け出る必要があります。
① 医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報の作成の用に供するものとして、認定事業者に提供すること
② 認定事業者に提供される医療情報の項目
③ 認定事業者への提供の方法
④ 本人又はその遺族からの求めに応じて、当該本人が識別される医療情報の認定事業者への提供を停止すること
⑤ 本人又はその遺族からの求めを受け付ける方法
本人又はその遺族は、医療情報の提供を望まない場合、いつでもその提供の停止を求めることができることとされていますが、かかる申出がなければ、医療情報取扱事業者は、提供の停止を求めるために必要な期間が経過した後、認定事業者に対して医療情報を提供することができます。
(2)認定事業者に係る認定基準
認定事業者として認定を受けるためには、以下のような多岐にわたる基準を満たす必要があります。
① 組織体制の整備(事業を安定的・継続的に行う体制、科学的な妥当性を含め個別の匿名加工医療情報の提供の是非を適切に判断する体制、事業運営の状況の開示など事業運営の透明性の確保、広報啓発相談への適切な対応体制、内部規則の整備等)
② 匿名加工、医療分野の研究開発等の識見を有する人員の確保(大量の医療情報の適切な取得、整理及び安全管理、匿名情報の匿名加工、並びに匿名加工医療情報を用いた研究開発の推進等に関する高度な専門性の確保)
③ 取り扱う医療情報の規模及び内容が、匿名加工医療情報作成事業を適切かつ確実に行うに足りるものであること
④ 事業計画の作成・適切な事業運営体制(基本方針に沿った中期的計画、事業実施に必要な設備、経理的基礎等)
⑤ 情報セキュリティ及び物理的・技術的安全管理措置の基準を満たすこと(組織・人的要因の徹底排除、基幹業務系と情報系システムの分離、基幹業務系システムのオープンネットワークからの分離、多重防御・安全策の導入等)
3.現在の状況
上記のとおり、認定事業者に係る認定基準が非常に厳格であるため、次世代医療基盤法施行から1年半が経過した現在においても、未だ認定事業者が存在しない状況です。認定がなされた場合は主務大臣により遅滞なく公示されることとなっており、今後の動向が注目されます。
詳細は、以下のサイトをご覧ください。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/jisedai_kiban/ninteisinsei.html
≪弁護士 吉浦 くにか≫