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【ニュース】遺留分制度の改正と事業承継への影響

 先日のトピックスで、2018年7月6日に可決・成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、同法による相続法の改正点のうち、「自筆証書遺言の方式緩和」についてご紹介させていただきましたが(詳細については、https://www.spring-partners.com/topic/1447.html 参照)、今回は、同法による改正点のうち、特に大きな改正である「遺留分制度の改正」の概要について、簡単にご説明させていただきます。

 なお、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」は、その内容により施行日が分かれておりますが、遺留分制度の改正に関しては、2019年7月1日より施行されます。

1 現行民法における遺留分制度

 遺留分制度とは、最低限相続できる財産を「遺留分」として保障する制度であり、現行民法では、遺留分が侵害された場合には、遺留分減殺請求が可能とされております。

 この遺留分減殺請求権が行使されると、遺留分を侵害する贈与や遺贈は、遺留分を侵害している限度で効果を失います。

 しかしながら、この遺留分減殺請求においては、遺留分減殺請求により失効した贈与財産そのものを返還するのが原則とされており、遺留分減殺請求を受けた相手方は金銭による価格賠償も選択可能であるものの、遺留分減殺請求権者からは価格賠償を求めることができません(民法1041条)。

 そのため、例えば、遺留分を侵害する贈与等の対象が、不動産などの分割困難な資産の場合、遺留分減殺請求権を行使すれば、当該不動産等の資産は、贈与を受けた者と遺留分権利者との共有となります。

 このような遺留分減殺請求制度については、遺留分権利者が減殺請求権行使により必ずしも満足を受けられない点や、減殺請求により生じる共有関係が新たな紛争に繋がる恐れがある点等の問題が指摘されてきました。

2 遺留分制度の改正

 そこで、今回の法改正では、これまでの遺留分減殺請求は廃止され、遺留分侵害額請求が導入されました。これにより、遺留分権利者は、侵害された遺留分に相当する金銭の支払請求のみ可能となりました。

 この遺留分制度の改正により、遺留分の請求が金銭請求に一本化されたことで、不動産などの分割困難な資産をめぐる複雑な共有関係が生じることもなくなり、遺留分に基づく権利の主張・権利処理がスムーズになるものと期待されています。

 また、これまでは、相続人に対する特別受益に該当する贈与は、相続開始の何年前に行われたものであっても、その期間を問わず遺留分算定の基礎とされていましたが、今回の改正により、相続人に対する特別受益のうち、遺留分算定の基礎とされる贈与は、相続開始前10年間になされた贈与に限定されました。

3 事業承継への影響

 今回の遺留分制度の改正により、特に大きな影響を受けるのは事業承継です。

 これまでは、被相続人が、自社株式や事業用の資産を、事業を後継する相続人に承継させようとしても、遺留分減殺請求によりこれらの資産が他の相続人との共有となってしまい、円滑な事業承継に支障が生じるケースが多々生じていました。これに対し、今回の遺留分制度の改正により、遺留分を一律に金銭により権利処理することとなったため、事業用資産の承継が行いやすくなりました。

 また、これまでは、将来の遺留分減殺請求に備えて、事業用資産の承継にあたり贈与を避けて売買等の手法を選択するケースも見受けられましたが、今回の改正で、相続人に対する特別受益のうち遺留分算定の基礎となるものが相続開始前10年間になされた贈与に限定されたことで、今後は、早期の事業用資産の贈与により遺留分の問題が生じることを避ける手法を採ることも考えられます。

 昨今、経営者の高齢化が進む中、特に中小企業における事業承継が問題となるケースが増えています。

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≪弁護士 小山 航≫