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【ニュース】経産省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」の改訂

弁護士小野 顕

経済産業省は、金融庁・東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)を受け、2017年3月に「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を策定していましたが、2018年9月28日付で、このCGSガイドラインの改訂版(以下「改訂CGSガイドライン」)が発表されています。

改訂CGSガイドラインは、2017年12月に上場企業を対象として行われたアンケートの結果や、2018年6月のCGコード改訂を含め、当初策定時以降の議論・実践の深化等を踏まえたアップデート版と言ってよいかと思われます。経済産業省のリリースでは、主な改訂項目として以下の点が挙げられています。

(1) 社長・CEOの指名と後継者計画

(2) 取締役会議長

(3) 指名委員会・報酬委員会の活用

(4) 社外取締役の活用

(5) 相談役・顧問

このように同一のテーマに関し複数の官庁が指針を作成すること自体について、批判的な視点もありうるかとは思われますが、CGSガイドラインは、当初の策定時点からも、また今回の改訂内容を見ても、東京証券取引所規則によりコンプライ/エクスプレインが義務付けられたCGコードをいかに実践するかに関して、いわゆるベスト・プラクティスを含む具体的な情報を提供するものと評価できるように思われます。多数の上場企業にとって、実際的にもかなり有益なものといってよいのではないでしょうか。

一例として、今回の改訂のうち、上記(1)の後継者計画に関する改訂について触れてみましょう。この改訂は、CGコードの補充原則4-1③にいう取締役会によるCEO等の後継者計画の監督について、2017年7月時点で86.61%の企業が実施(コンプライ)していると公表している一方、同年12月の上記アンケートによれば、後継者計画が何らかの文書として存在している企業は全体の1割程度にとどまり、また約51%の企業が社長・CEOの後継者計画・監督について取締役会での議論が不足していると考えている、等の状況を踏まえたものかと思われます。このような大多数の企業にとって関心も強く悩みも大きいであろうテーマについて、37頁にわたる別紙4「社長・CEOの後継者計画の策定・運用の視点」等により、後継者計画に取り組む際の基本形としての「7つの基本ステップ」(①ロードマップの立案、②「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定、③後継者候補の選出、④育成計画の策定・実施、⑤後継者候補の評価、絞込み・入替え、⑥最終候補者に対する評価と後継者の指名、⑦指名後のサポート)、社内者・社外者の役割分担、指名委員会の関与等に関する提言が行われ、10社の実際の取組例も紹介されています。現時点でCGコードの当該規定について悩んでおられる企業のみならず、既に具体的な後継者計画を策定・実施されている企業にとっても、その再確認・見直しという観点を含めて、検討に値する内容ではないかと思われます。

このほか、改訂CGSガイドラインの冒頭部分で、各社の規模のほかグローバル化の程度・株主構成等の如何によりなすべきことも異なるとしている点をはじめ、実態を踏まえた議論が行われているように感じます。改訂CGSガイドライン自体は全体で138頁に及ぶものですが、以下URLのとおり、ガイドライン全般についてのエグゼクティブ・サマリーや、今般の改訂内容をまとめた資料も作成されております。これまで十分にご検討されていない企業のCEO・役員の方々、実務担当者の方々も、まずはそちらからお目通しされてみてはいかがでしょうか。加えて、上記の2017年12月の上場企業アンケートの内容も全般的に興味深いところであり、あわせて以下にURLを掲載しておりますので、是非ご参照下さい。

最後に、同ガイドラインの策定・改訂作業にあたった経済産業省のCGC研究会(第2期)のウェブページによれば、2019年3月に予定される次回取りまとめに向けた議論も継続中のようです。先般のCGコード改訂に際しての大きな視点の1つであった、自社の資本コストの把握に基づく「事業ポートフォリオの見直し」に関する具体的議論も行われているなど、この経過についても注視が望ましいのではないかと思われます。

以上、改訂CGSガイドラインについて簡潔にご紹介させていただきましたが、弊事務所におきましては、CGコード対応、及びそのためのCGSガイドラインの活用と具体化を含め、コーポレートガバナンスに関する各種ご支援につきましても、幅広くリーガルサービスを提供しております。是非ご相談をいただければ大変幸いに存じます。

《弁護士 小野 顕》

【経済産業省:コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を改訂しました(2018年9月28日)】

http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008.html

【コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)改訂版本文】

http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008-1.pdf

【同エグゼクティブ・サマリー】

http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008-2.pdf

【同「見え消し版(改訂前からの変更点)」(※修正履歴付全文)】

http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008-3.pdf

【CGSガイドラインの主な改訂内容】

http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008-4.pdf

(参考)

【東京証券取引所:改訂コーポレートガバナンス・コードの公表(2018年6月1日)】

https://www.jpx.co.jp/news/1020/20180601.html

【CGC研究会(第2期)関連資料等】

http://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/index.html

【CGS研究会事務局資料:CGガイドラインのフォローアップについて(アンケート結果)】

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/cgs_kenkyukai/pdf/2_003_03_00.pdf