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【ニュース】消費者契約法の改正

 消費者契約法は、消費者と事業者との間の契約において交渉力や情報量に劣る消費者の利益を守るための法律であり、数度にわたり改正されてきましたが、この度、消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)が本年6月8日に成立し、同月15日に公布されました。本改正は、消費者契約に関する実際の被害事例等を踏まえた対応がなされたものであり、特に取り消しうる不当な勧誘行為として「不安をあおる告知」「恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用」(いわゆるデート商法)を追加したことが大きな改正点として注目を集めており、消費者取引を行う企業の皆様・消費者の皆様それぞれに影響する法改正となります。この法律は公布の日から起算して1年を経過した日(平成31年6月15日)から施行されます。なお、平成30年6月13日には民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立したため(施行は平成34年4月1日)、将来的には悪徳商法に陥りやすい年齢層である18歳、19歳の消費者を保護する法律としてその活用が期待されています。

 本改正の概要は以下のとおりです(以下、改正後の消費者契約法を「法」といいます。)。

1.取り消しうる不当な勧誘行為の追加等

 事業者が行う以下の各行為が、取り消しうる不当な勧誘行為に追加されました。

(1)社会生活上の経験不足の不当な利用

  ①不安をあおる告知(法第4条第3項第3号)

 消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、社会生活上の重要な事項(進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項及び容姿、体形その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項)に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、合理的根拠その他の正当な理由がないのに、願望を実現するために契約の目的となるものが必要である旨を告げること。

【例】就活中の学生の不安を知りつつ、「このままでは一生成功しない、この就職セミナーが必要」と告げ勧誘すること

  ②恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用(法第4条第3項第4号)

 消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、勧誘者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、勧誘者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じて、契約を締結しなければ勧誘者との関係が破綻することになる旨を告げること。

【例】消費者の恋愛感情を知りつつ、「勧誘してくれないと関係を続けない」と告げて勧誘すること

(2)加齢等による判断力低下の不当な利用(法第4条第3項第5号)

 消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、合理的根拠その他の正当な理由がないのに、契約を締結しなければ現在の生活の維持が困難になる旨を告げること。

【例】認知症で判断力が著しく低下した消費者の不安を知りつつ、「この食品を買って食べなければ、今の健康は維持できない」と告げて勧誘すること

(3)霊感等による知見を用いた告知(法第4条第3項第6号)

 消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。

【例】「私には霊が見える。あなたには悪霊がついており、このままでは病状が悪化するが、この数珠を買えば悪霊が去る」と告げて勧誘すること

(4)契約締結前の債務の実施等

 事業者が、消費者に心理的な負担を抱かせるような言動を行い、契約を締結させること。ここには、①契約締結前における契約上の義務の実施(法第4条第3項第7号)と、②契約締結を目指した事業活動による損失補償請求等の告知(法第4条第3項第8号)の二つの類型が含まれます。

【例】①注文を受ける前に消費者が必要な寸法にさお竹を切断し、代金を請求すること

   ②マンション投資勧誘において、事業者が話だけでも聞いてほしいと強く面談を申し入れたために、消費者が断り切れずに面談を行った後、事業者が「飛行機に乗って特別に遠方から来た以上、投資を断るなら飛行機代を請求する」と告げ勧誘すること

(5)不利益事実の不告知の要件緩和(法第4条第2項)

 改正前の消費者契約法において、不利益事実の不告知による取消しを行うためには事業者の「故意」が必要でしたが、今回の改正により「重大な過失」があった場合も取消しの対象となり、取消しの要件が緩和されました。

2.無効となる不当な契約条項の追加等

(1)後見開始の審判等による解除権付与条項(法第8条の3)

 消費者が後見開始、補佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する消費者契約の条項は無効となります。

(2)事業者が自らの責任を自ら決める条項(法第8条第1項)

 事業者の責任の有無又は限度を事業者自らが決定する権限を当該事業者に付与する条項は無効となります。

3.事業者の努力義務の明示(法第3条第1項)

 事業者は、①消費者契約の条項の作成において、解釈に疑義が生じない明確かつ平易なものになるよう配慮するよう努め、また、②個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で必要な情報を提供するよう努めることが明示されました。

詳細は、消費者庁のHPをご覧ください。

http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/amendment/2018/

≪弁護士  吉浦 くにか≫