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下請法の改正等に関わる「企業取引研究会報告書」が公表されました(令和6年12月25日)

弁護士福山 靖子

公正取引委員会及び中小企業庁は、適切な価格転嫁をサプライチェーン全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について、下請法を中心に検討することを目的として、有識者からなる「企業取引研究会」(以下「研究会」といいます。)を開催し、議論を重ねてきました。
 そして、研究会は、その議論の取りまとめとして、令和6年12月25日、「企業取引研究会報告書」(以下「報告書」といいます。※1)を公表し、現在、報告書に対する意見募集が行われています(※2)。
 今後は、意見募集の結果も踏まえ、約20年ぶりとなる下請法の改正や独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直しなどが行われることになります。下請法の改正の論点の一つには、下請法の適用基準の見直しもあるところであり、今後は、より一層、下請法の適用を受ける事業者の数は増える見込みです。
 本トピックスでは、取引実務における下請法の重要性をふまえて、以下で、報告書の概要についてご紹介いたします。

※1 企業取引研究会報告書
 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/dec/241225_kigyotorihiki_1.pdf
 ※2 「企業取引研究会報告書」に対する意見募集について
 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/dec/1225_kigyotorihiki_repot.html

○目次
(1) 適切な価格転嫁の環境整備に関する論点(買いたたき規制の在り方)
(2) 下請代金等の支払条件に関する論点
(3) 物流に関する商慣習の問題に関する論点
(4) 執行に係る省庁間の連携の在り方に関する論点
(5) 下請法の適用基準に関する論点(下請法逃れへの対応)
(6) 「下請」という用語に関する論点
(7) その他の論点(金型等に関する論点、遅延利息に関する論点、是正後の勧告、電磁的書面交付)
(8) 知的財産・ノウハウの取引適正化に関する論点(独占禁止法のガイドライン・下請法の運用基準の見直しとの関係)

○報告書の概要

(1) 適切な価格転嫁の環境整備に関する論点(買いたたき規制の在り方)
 「買いたたき」は「通常支払われる対価に比し著しく低い」ことが対価要件であり、この「通常支払われる対価」は「市価」とされていますが、下請取引は個別性の高い委託取引が多く、「通常支払われる対価=市価」の把握が困難であるという問題点があります。そのため、これまで運用上の工夫として、市価の把握が困難な場合には「従前の対価」を「市価」として取り扱い、下請代金が「著しく低い」水準まで引き下げられるような取引に対しては勧告等が行われてきました。しかし、近年のような労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇局面や生産量が減少するなどの場合における価格の据置き等の行為は、価格が「従前の対価」から引き下げられるわけではないため、現在の「買いたたき」規制の要件には合致しにくいなどの問題点の指摘がありました。
 そこで、報告書では、下請法が対象とする取引において適正価格(フェアプライス)が実現されるためには実効的な価格交渉が行われることが必要であるとの考えから、現在の下請法第4条第1項第5号の買いたたきとは別途、実効的な価格交渉が確保されるような取引環境を整備する観点から、例えば、給付に関する費用の変動等が生じた場合において、下請事業者からの価格協議の申出に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に下請代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為を規制する必要があると指摘されています。
 この論点に関して、報告書の「独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直し」の項では、サプライチェーン全体での円滑な価格転嫁を実現するため、上記の観点を優越的地位の濫用の考え方にも当てはめ、優越ガイドライン等で想定事例や考え方を示すことを検討する必要があると述べられています。

(2) 下請代金等の支払条件に関する論点
 支払が手形によって行われる場合、下請事業者にとっては手形サイトに相当する期間は現金を受領できず、資金繰りの負担が生じ、また、資金繰りのために手形を割り引く際の割引料は通常は下請事業者が負担するなど、手形は資金繰りの負担を下請事業者に求める手段として用いられてきた実態があります。また、電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング等)は、手形と同様に下請代金の全額を現金で受領するまでの期間が給付の受領日(納品日や役務提供日)から起算して60日を超えることが多く見られます。
 そこで、報告書では、解決の方向性として、近年、支払手段の現金化が大きく進んできたなどの商慣習の変化が生じていることもふまえ、下請代金の支払期日を定める義務や支払遅延を禁止している下請法の趣旨に立ち返り、支払遅延に関する親事業者の遵守事項として、親事業者が下請代金を支払うに当たり、①紙の有価証券である手形については、下請法の代金の支払手段として使用することを認めない、②その他金銭以外の支払手段(電子記録債権、ファクタリング等)については、支払期日までに下請代金の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めないことが必要との指摘がなされています。
 この論点に関して、報告書では、「独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法の運用・執行の見直し」としては、振込手数料を下請事業者に負担させる行為は、合意の有無にかかわらず下請法上の違反に当たることとし、その旨、解釈を変更して、運用基準において明示することや、サプライチェーン全体で手形の廃止や支払サイトの短縮化を実施していくため、不当に長く支払サイトを設定するような行為について優越的地位の濫用に係る考え方を整理し、優越ガイドライン等で想定事例や考え方を示すことを検討する必要があることなどが述べられています。
 また、製造委託の取引において、不良品が発生した場合、不良の原因の所在にかかわらず不良の是正に要した費用を親事業者から有償支給されている「原材料代」として一方的に下請代金から相殺するような行為は、下請法上の減額等の違反行為となり得る等の考え方を明確に示すべきであるとの考え方も示されています。

(3) 物流に関する商慣習の問題に関する論点
 着荷主と発荷主の間には通常、明示的な有償の運送契約等が結ばれないことから、発荷主から運送事業者への運送業務の委託は、現在のところ下請法の適用対象とはされていません。しかし、両者の取引構造や、発荷主・運送事業者間において生じている諸課題(買いたたき、契約にない荷役、長時間の荷待ち)についても、下請法における取扱いについて見直すべきであることが論点とされました。
 そこで、報告書では、より簡易な手続により、迅速かつ効果的に問題行為の是正を図っていくことが必要であるとの考えから、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引の類型を新たに下請法の対象取引としていくことが述べられており、あわせて新たに下請法の適用対象となる具体的な取引の内容や事業者の範囲を明確にした上で幅広く周知するなど、事業者の予見可能性の確保への配慮が必要であるとされています。

(4) 執行に係る省庁間の連携の在り方に関する論点
 事業所管省庁による下請法遵守に向けた関与や、下請法違反行為に対する指導・助言等の重要性が論じられ、また現行下請法では、公正取引委員会や中小企業庁に情報提供を行った事業者に対する保護規定(報復措置の禁止規定(第4条第1項第7号))は手当てされているものの、事業所管省庁に情報提供を行った者への保護規定は手当てされていない問題についても見直すべきとの指摘がありました。
 そこで、報告書では、①現行法においても事業所管省庁は中小企業庁の措置請求のための調査権限を有しているが、それに加えて下請法上問題のある行為について指導する権限を規定すること、②下請事業者が申告しやすい環境を確保すべく、報復措置の禁止(第4条第1項第7号)の申告先として、現行の公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え、事業所管省庁の主務大臣を追加することが必要であると述べられています。

(5) 下請法の適用基準に関する論点(下請法逃れへの対応)
 現在の資本金額を用いた下請法の対象事業者の定義については、事業規模は大きいが資本金が少額であるため下請法の親事業者に該当しない、あるいは自ら減資したり、下請事業者に増資を求めることにより下請法の適用を逃れる親事業者が存在するといった問題がありました。
 これに対し、報告書では、現行の資本金基準に加えて、従業員基準により事業者の範囲を画していくこと、具体的には、下請法の趣旨や運用実績、取引の実態、事業者にとっての分かりやすさ、既存法令との関連性等の観点から、従業員数300人(製造委託等)又は100人(役務提供委託等)の基準を軸に検討するとされています。

(6) 「下請」という用語に関する論点
 下請法における「下請」という用語は、発注者(親事業者)と受注者(下請事業者)が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘があり、また、発注者である大企業の側でも「下請」という用語は使われなくなっているといった時代の変化を踏まえ、報告書では、「下請」という用語を時代の情勢変化に沿った用語に改める必要があると述べられています。具体的な用語については、既存の法令も参考にしつつ、下請法の趣旨や対象となる取引を表現するにふさわしい用語を政府において検討していくべきとされています。

(7) その他の論点
ア 金型等に関する論点
 金型の無償保管の問題について、金型の所有権が下請事業者にある場合であったとしても金型の所有権が発注者にある場合と同様に下請事業者に不当な不利益が生じていると整理するべきではないか、木型等の金型以外の型も下請法において金型と同様の扱いとする必要はないかとの論点に対し、現行の下請法運用基準を見直し、金型の所有権の所在にかかわらず型の無償保管要請が下請法上の問題となり得る旨整理し、どのような場合に下請法上問題となるのか、発注者や受注者にとって 分かりやすい基準を明記することや、木型その他専ら当該物品の製造の用に供されるものとして適切な物品を規則等で具体的に定めるなどして製造委託の対象に追加すると述べられています。

イ 遅延利息に関する論点
 現行の下請法においては、遅延利息の対象行為は支払遅延に限られていますが(下請 法第4条の2)、減額についても、支払を受けられるまでは金額を受領できていないという意味で支払遅延と同等と評価し得ることから遅延利息の対象とすべきではないかとの論点について検討が行われた結果、解決の方向性として、減額行為によって代金を減額された部分について遅延利息の対象に加えることが適切であるとの提言がなされています。

ウ 既に違反行為が行われていない場合の勧告の整備について
 下請法の受領拒否、支払遅延及び報復措置に係る勧告は、行為が継続している場合にするものと規定しているため、既に行為がなくなっている場合には勧告ができません(下請法第7条第1項)。しかし、勧告の内容として再発防止策なども含まれ得ることから、報告書では、受領拒否、支払遅延及び報復措置について、過去に当該行為をした事実が認められた場合には、勧告することができるように対応することが適切であると述べられています。

エ 書面の交付等に係る規定の整備に関する論点
 現行の下請法では書面の交付が義務付けられていますが(下請法第3条)、電磁的方法で提供する場合には下請事業者の事前の承諾が必要とされています(同条第2項)。この電磁的方法の提供については、広く普及していると考えられる電子メー ルによることも可能であり、下請事業者においても大きな支障を生じるものではないと考えられることから、下請事業者の承諾の有無にかかわらず、必要的記載事項を電磁的方法により下請事業者に対し提供することができるように対応すべきとされています。

(8) 知的財産・ノウハウの取引適正化に関する論点(独占禁止法のガイドライン・下請法の運用基準の見直しとの関係)
 取引に際し、受注者側が元来保有していたり、取引によって取得したりした知的財産権やノウハウを、無償又は低廉な価格で発注者側に帰属させる行為は、優越的地位の濫用や下請法における買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請として問題となり得るところ、現在のガイドラインで十分な手当てができていない可能性が指摘されたことから、今後、幅広い業種を対象とした実態調査を改めて行い、調査結果を踏まえ、独占禁止法のガイドラインや下請法の運用基準の見直しにつなげることが必要と提言されています。