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男女雇用機会均等法における「間接差別」について

弁護士山口 源樹

一般職として働く女性社員が、男性が大半を占める総合職の社員だけに社宅制度を認める取扱いは、事実上の男女差別だとして、会社に対して訴えを提起した裁判の判決が、令和6年5月13日、東京地方裁判所でありました。

“総合職男性社員だけの社宅制度は間接差別で違法” 会社側に損害賠償命じる判決 東京地裁 | NHK | 働き方改革

裁判所は、当該判決において、上記取扱いは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」といいます。)上の趣旨に照らし、「間接差別」に該当すると判示した上で、会社の不法行為責任を認めました。

上記判決は、「間接差別」を明確に認定した初の裁判例として複数のメディアでも報道されているものでもあるため、そもそも「間接差別」とは何か、以下解説をいたします。

1 間接差別とは

間接差別とは、一般に、性別等の属性(差別事由)に外見上中立的な基準・措置であるが、結果として一方の属性のものに特定の不利益をもたらす可能性のあるものなどと定義されています。なお、間接差別事案においては、当該基準を設けることに合理的な理由がなければ違法な差別に該当するものとされており、直接差別事案において問題となる「差別意図」の有無は問われないものとされています。

例えば、「間接差別」概念のリーディングケースにもなったとされる1971年のアメリカのGriggs v. Duke Power Co. 事件判決は、部署の配置転換に学力要件を課すことが、人種による雇用差別を禁ずる公民権法第7編に反するものか否かが争われた判決です。

学力要件を課すことにより、伝統的な人種差別の残存効果により、黒人の授業員の中には当該要件を充足できない者が多数存在しており、白人従業員よりも不利な効果が生じていたという事案に対し、連邦裁判所は、学力要件という中立的な区別事由ではあるものの、それによって生ずる現実の効果は、従前の人種差別の効果の温存、再生産となり、黒人に不利であり、差別的な効果を生じさせるものであること、また、そのような学力要件を課すべき職務上の関連性がないことを認定し、公民権法第7編に違反する旨判示しました。

2 男女雇用機会均等法における間接差別

こうした間接差別の議論を受け、本邦においても、男女雇用機会均等法において、性別による間接差別が禁止されるに至りました。

現在、男女雇用機会均等法第7条は、以下のとおり定めています。

(性別以外の事由を要件とする措置)

第七条 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。

また、同条を受けた男女雇用機会均等法施行規則第2条は、間接差別の具体例を以下のとおり定めています。

① 労働者の募集又は採用に関する措置であって、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの

② 労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に関する措置であって、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの

③ 労働者の昇進に関する措置であって、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの

すなわち、上記①~③に該当する定めを置いている場合は、かかる定めを置く合理的な理由がない限り、(当該定めを置いた意図がどうであったかを問わず)男女雇用機会均等法に反することになります。

厚生労働省の資料では、上記①~③に関する、より具体的な例について言及されています。

例えば、①については、荷物を運搬する業務を内容とする職務について、当該業務を行うために必要な筋力より強い筋力があることを要件とする場合には、合理的な理由がない場合に該当するものとされています。

その他の具体例等については以下の同資料をご確認ください。

000839074.pdf (mhlw.go.jp)

3 結語

上記①~③は限定列挙であるため、上記①~③以外の取扱いは、男女雇用機会均等法に反するものではありません。

もっとも、上記①~③に該当しない場合であっても、内容によっては、なお「間接差別」に該当する違法なものであり、不法行為責任が生じると判断される可能性があることに留意が必要です。

冒頭にて紹介した事例も、総合職の社員だけに社宅制度を認める取扱いという上記①~③以外の取扱いが問題となった事例ですが、裁判所は、かかる取扱いについては、合理的な理由がない「間接差別」に該当し違法であるとして、会社の不法行為責任を認めたものとなります。

今後の裁判の動向については引き続き注目していく必要はありますが、実務的にも少なからず影響がある裁判かと思われますので、事業者の方々におかれましては、自社の諸規程及び取扱いにつき、今一度ご確認いただいてみてはいかがでしょうか。

≪弁護士 山口 源樹≫